・KRASG12C遺伝子変異陽性の進行性膵がん/消化器がん患者が対象の第1/2相試験
・KRAS阻害薬であるアダグラシブ(MRTX849)単剤療法の有効性・安全性を検証
・部分奏効率は消化器がん患者で41%、膵がん患者で50%であり、
病勢コントロール率はいずれの消化器がんにおいても100%を示した
2022年1月19日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にてKRASG12C遺伝子変異陽性の進行性固形がん患者に対するKRAS阻害薬であるアダグラシブ(MRTX849)単剤療法の有効性、安全性を検証した第1/2相のKRYSTAL-1試験(NCT03785249)の結果がMayo ClinicのTanios S. Bekaii-Saab氏らにより公表された。
KRYSTAL-1試験は、KRASG12C遺伝子変異陽性の進行性固形がん患者(非小細胞肺がん、大腸がん、膵臓がんを除くその他消化器関連がん:N=42人)に対して1日2回アダグラシブ(MRTX849)600mg単剤療法を実施し、評価項目として奏効率(RR)、安全性、PK(薬物動態)などを検証した多施設共同の第1/2相試験である。
本試験が開始された背景として、KRASはがん患者で最も頻繁に確認されるがん遺伝子であり、細胞の成長と増殖を促進するRAS/MAPKシグナル伝達経路の重要なメディエーターである。がん種の中でも、膵がんの約90%はKRAS遺伝子変異が発現しており、その約2%はKARAG12C遺伝子変異である。KRAS阻害薬であるアダグラシブ(MRTX849)は、KARAG12Cを不可逆的かつ選択的に阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。以上の背景より、KRASG12C遺伝子変異陽性の進行性固形がん患者に対するKRAS阻害薬アダグラシブ(MRTX849)単剤療法の有用性を検証する目的で本試験が開始された。
本試験に登録された患者の年齢中央値は63.5歳(21~89歳)、性別は女性52%、人種は白人71%、ECOG Performance Statusスコアは0が29%、スコア1が71%。前治療歴中央値は2レジメン(1~7レジメン)。KRASG12C遺伝子変異陽性患者のうち、30人は消化器関連がんであり、その内訳は膵がん12人、胆道がん8人、虫垂がん5人、胃食道接合部がん2人、小腸がん2人、食道がん1人。以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。
有効性評価可能であった27人の患者における部分奏功率(PR)は41%(N=11/27人)、病勢コントロール率(DCR)は100%(N=27/27人)を示した。また、膵がん患者(N=12人)のうち、有効性評価が可能であった患者は10人であり、部分奏効率(PR)は50%(N=5/10人)、病勢コントロール率(DCR)は100%(N=10/10人)、無増悪生存期間(PFS)は6.6ヶ月(95%信頼区間:1.0~9.7ヶ月)を示した。なお、現在も膵がん患者の50%が治療を継続している。
膵がん以外の消化器がん患者のうち17人が有効性評価可能であり、部分奏効率(PR)は35%(N=6/17人)、病勢コントロール率(DCR)は100%(N=17/17人)を示し、なお、現在も11人の患者が治療継続している。
一方の安全性として、治療関連有害事象(TRAE)発症率は91%(N=38/42人)であり、最も多くの患者で確認された治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。吐き気が48%、下痢が43%、嘔吐が43%、倦怠感29が%。なお、グレード3もしくは4の治療関連有害事象(TRAE)発症率は21%、グレード5の治療関連有害事象(TRAE)発症率は0%であった。
以上のKRYSTAL-1試験の結果よりTanios S. Bekaii-Saab氏らは「KRASG12C遺伝子変異陽性の進行性膵がん、その他の消化器がんに対するKRAS阻害薬アダグラシブ(MRTX849)単剤療法は、臨床で期待のできる抗腫瘍効果を示し、忍容性も良好でした。同患者群においてアダグラシブ(MRTX849)単剤療法のさらなる研究が進行中です」と結論を述べている。
この記事に利益相反はありません。