2019年7月9日、アストラゼネカ株式会社(以下、アストラゼネカ)は、卵巣がんにおけるBRCA1/2(以下、BRCA)遺伝子変異の保有率に関する大規模調査:Japan CHARLOTTE study(以下、CHARLOTTE)を国内63の医療施設で実施したことを発表した。日本人症例における初の大規模な調査であり、婦人科領域のがんゲノム医療を推進する貴重なデータとなる。なお、CHARLOTTE調査の結果は、2019年7月1日付でInternational Journal of Gynecological Cancer電子版に掲載されている。
目次
Japan CHARLOTTE studyの調査内容
CHARLOTTEは、国内における新規診断を受けた上皮性卵巣がん、原発性腹膜がん、卵管がん症例のBRCA遺伝子変異の保有率を把握することを目的に、2016年12月から2018年6月までに登録された666症例のうち、BRCA遺伝子検査を実施した634症例を対象に調査した。
日本人における卵巣がん患者のBRCA遺伝子変異の保有率については、これまでデータが限られてたが、本調査の結果から新規診断を受けた卵巣がんにおけるBRCA遺伝子変異陽性の割合は14.7%と欧米人を対象とした研究報告*1(14.1%)と同程度であることが明らかとなった。また進行卵巣がん(FIGO分類III期またはIV期)における陽性の割合は24.1%と、早期卵巣がん(4.9%)より高い保有率であった。
BRCA1およびBRCA2は損傷したDNAの修復を担う遺伝子であり、細胞のがん化を抑制する働きがある。これら遺伝子のいずれかに変異があることで、DNAの正常な修復が妨げられ、卵巣がんや乳がんになりやすくなると考えられており、一般の方に比べて卵巣がんの発症率がBRCA1に変異がある場合は39~60倍、BRCA2に変異がある場合は16~27倍高くなると言われている*2,*3。
CHARLOTTEの共同研究者である、新潟大学医学部 産科婦人科学教室の榎本 隆之先生は「日本人におけるBRCA遺伝子変異の保有率が明らかになったことで、患者さんが遺伝子検査の目的を理解し、より納得して検査を受けていただけることを期待しています。遺伝子変異の有無を確認することにより、われわれ医師も患者さんにとってより最適な治療を選択することが可能となります」と述べている。
アストラゼネカの執行役員 メディカル本部長の松尾 恭司氏は、調査結果を受け、「CHARLOTTEは日本の卵巣がん患者さんを対象とした最大規模の調査であり、この調査によって日本人のBRCA遺伝子変異の保有率や日本人固有の組織型を把握することができました。今回得られたデータが、卵巣がんのプレシジョン・メディシンの実践にあたり重要なエビデンスとして活用され、より多くの患者さんにBRCA遺伝子検査の機会が提供されることを期待しています」と述べている。
Japan CHARLOTTE studyの主な結果
・進行卵巣がん(FIGO分類III期またはIV期)におけるBRCA遺伝子変異の割合は24.1% (78例/BRCA1: 16.3%、 BRCA2: 7.7%)。
・卵巣がん全体(FIGO分類I期~IV期)のBRCA遺伝子変異の割合は14.7% (93例/BRCA1: 9.9%、 BRCA2: 4.7%)で、欧米保有率と同程度であることが確認された。
・診断名別のBRCA遺伝子変異は、上皮性卵巣がんで12.7% (68/534例)、卵管がんで29.2%(14/48例)、原発性腹膜がんで21.2%(11/52例)。
・組織学的分類別では、短期間で発症し、進行がんが多い高異型度漿液性がんにBRCA遺伝子変異が最も多く、その割合は28.5%(78/274例)。
・BRCA遺伝子検査を受けた患者の96%以上が、実施前のカウンセリングに対して実施者の職種*にかかわらず、「十分満足している」または「満足している」と回答。
* 臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーまたは担当主治医
BRCA遺伝子変異について
BRCA1およびBRCA2は損傷したDNAの修復を担うタンパクを生成する遺伝子であり、細胞内遺伝子の安定性維持に重要な役割を果たす。これら遺伝子のいずれかに変異があるとBRCAタンパクが生成されない、または正常に機能せず、DNA損傷が適切に修復されず細胞が不安定になる可能性がある。その結果、細胞はがん化につながるさらなる遺伝子変化を起こす可能性が高くなる。
参考文献
*1. Alsop K 2012, JCO
*2. 国立がん研究センターがん情報サービス:「がんに罹患する確率~累積罹患リスク(2014年データに基づく)」
*3. HBOCコンソーシアム『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(Ver.4)』
*4. 日本婦人科腫瘍学会『卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方』
この記事に利益相反はありません。