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「がんになっても子供を作れる力」を患者さんに残したい——がん研究会有明病院の医師たちが有志で始めた取り組みとは?<Vol.1>がん研究会有明病院 GCLS研究会×妊孕性温存WG(ワーキンググループ)

  • [公開日]2018.01.17
  • [最終更新日]2019.07.03

聞き手:木口 マリ(子宮頸がん体験者)

 「がん治療のすえ、子供を作れない体になっていた」——がん治療は、その過程で妊娠する力(=妊孕性/にんようせい)が失われてしまうことも多々あります。それは、婦人科がんや精巣がんなどの生殖器のがん以外でも起こりうること。近年では「妊孕性温存」(妊娠する力を温存すること)が、がん治療の領域でも語られるようになってきましたが、未だ、医療従事者、患者のどちらにも十分な知識が行き渡っていないのが現状です。

 そんな現状を打開すべく、がん研究会有明病院(以下、がん研)の医師たちが立ち上げたのは「妊孕性温存WG(ワーキング・グループ)」。それは、どのような思いで始まり、どんな目的に向かっての活動なのでしょうか。WGの中心となっている医師4人にうかがいました。聞き手は、木口マリ(子宮頸がん体験者)です。(第1回/全2回)

目次

「できたことがあったかもしれないのに」——患者の妊孕性温存を考える

 妊孕性は、“赤ちゃんを産む”というだけでなく、自分自身に対する価値や尊厳にまで関わる大きな問題です。今回は、がん研「GCLS研究会・妊孕性温存WG」に所属している医師4名にお話をうかがいます。消化器化学療法科 副医長 市村 崇先生、乳腺センター乳腺外科 医長 片岡 明美先生、総合腫瘍科 副医長 小野 麻紀子先生、婦人科 副医長 青木 洋一先生です。

木口:まず、「GCLS研究会」について教えてください。

市村:GCLS研究会とは、Ganken Child Life Support研究会の略で、がんの親を持つ子供をサポートするために立ち上げられた研究会です。

 もともとがん研の患者さんは若年者が多いという特徴があります。自然と、そのお子さんもまだ小さく、親ががんになったことで、何らかの心のダメージを負っていることが多々あります。病院では、患者さんのことはしっかり診るけれど、そのお子さんにまでケアが行き届いていないのが現状です。

 そういった状況を何とかしたいということで、2015年5月に6名の有志で勉強会を始めました。それがだんだんと大きくなり、現在に至っています。

(GCLS研究会について、詳しくは「がん患者の子供を支援するGCLS研究会」をご覧ください)

木口:GCLS研究会で「妊孕性温存WG」を立ち上げた、その経緯を教えてください。

市村:がん研には、未成年の患者さんが少なからず入院しています。以前、ある患者さんが、がんの治療を行なってがんは治癒したのですが、 “治療のために子供が作れなくなっていた”ということを大人になってから知り、大きなショックを受けるというケースがありました。それを何とかできないかという話がGCLS研究会の定例会で出されました。

 これまで妊孕性温存については、がん研では統一した対応をしていませんでした。そこで「WGを立ち上げ、しっかりとしたマニュアルを作り、すべてのがん患者さんの妊孕性温存をサポートしていく必要があるだろう」ということになりました。

 そして、もともと妊孕性温存に力を入れていた乳腺外科の片岡先生が委員長、総合腫瘍科の小野先生が副委員長となり、生殖医療専門医である婦人科の青木先生にも加わっていただき妊孕性温存WGを発足させました。現在では各診療科の医師、看護部、薬剤部、事務などを含め活動しています。

木口:WGではどのような活動をされているのでしょうか。

市村:主な活動は、医療従事者向けの「妊孕性温存マニュアルの製作」、すべての患者さんに対して妊孕性温存の希望の有無を問う「問診票の運用・システム作り」、医療従事者が妊孕性温存についてどのくらい知っているのかを研究する「意識調査」などです。また、全患者さん向けの『妊孕性温存ハンドブック』が完成間近となっています。これは、看護師など、医師以外の医療従事者でも患者さんに手渡せるというもので、全国配布や学会での配布を予定しています。

木口:ハンドブックは患者、医療従事者の双方にとっておおいに役立つものになりそうです!患者も治療を始める前に妊孕性について知っておくことは大事ですね。

片岡:患者さんは妊孕性のことを治療前に聞いていない場合もあり、あとで「子供ができない」ということを知って辛くなってしまうことがあります。その時、私たち医師も悔しいんです。「そんな希望があったなんて。子供が欲しいと知っていたらできたこともあったかもしれないのに」と思うことはよくあります。

 ですので、今はがん研にかかった最初の問診で全員に聞いています。聞き方が重いとダメなので、サラッと。ただこれも、治療の途中で患者さんの気が変わり「やっぱり子供がほしい」と思うこともあるという問題もあります。

今回は、がん研で始められた「妊孕性温存WG」の活動についてうかがいました。次回は「現代の妊孕性温存の方法」や、「医療従事者の意識向上の重要性」についてうかがいます。興味深いお話が盛りだくさんですので、お楽しみに!

(文:木口マリ)

Vol.2 妊孕性温存WG(ワーキング・グループ)記事

【子宮頸がん】 木口 マリの体験談


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