・神経膠芽腫には免疫チェックポイント阻害薬が効きづらい
・再発後の周術期にキイトルーダを使用するパイロット試験結果
・手術前、手術後にキイトルーダを使用することに生存期間が延長
原発性脳腫瘍の中で最も頻度の高い神経膠芽腫は、治療選択肢も限られ予後も悪く、3年生存率が10%程度というのが現実である。だが今回、免疫チェックポイント阻害薬の1つで抗PD-1抗体のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が、再発した神経膠芽腫の摘出術の前と後に投与することで、生存ベネフィットをもたらす可能性が示された。Ivy Foundation Early Phase Clinical Trials Consortiumが行った無作為化非盲検パイロット試験の成績で、米国カリフォルニア大学のRobert M. Prins氏らが2019年2月11日のNature Medicine誌オンライン版で発表した。
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摘出術2週間前の投与で死亡リスクが約6割減、手術施行に影響しない安全性も担保
2016年10月から2017年9月、米国の医療機関7施設で切除可能な再発神経膠芽腫患者35例(18歳以上)を登録し、キイトルーダを摘出術前後に投与する群(ネオアジュバント群)、または摘出術後にのみ投与する群(アジュバント群)に無作為に割り付けた。キイトルーダ1回200mgを術後3週ごとに静注するのは両群同じで、ネオアジュバント群は摘出術の14日(±5日)前にも静注した。
データカットオフ日は2018年7月2日で、解析対象は計32例、追跡期間中央値は476日(15.6カ月)であった。
全生存期間(OS)中央値は、ネオアジュバント群が417日(13.7カ月)、アジュバント群が228日(7.5カ月)で、ネオアジュバント群がアジュバント群と比べ有意に延長し(P=0.04)、死亡リスクが61%低下したことが統計学的に示された(ハザード比[HR]=0.39)。
無増悪生存(PFS)期間中央値は、ネオアジュバント群が99.5日(3.3カ月)、アジュバント群が72.5日(2.4カ月)で、ネオアジュバント群がアジュバント群と比べ有意に延長し(P=0.03)、増悪または死亡リスクが57%低下したことが統計学的に示された(HR=0.39)。
ネオアジュバントとしてキイトルーダを術前投与することで安全性の問題は発生せず、因果関係の否定できないグレード3またはグレード4の有害事象は認められなかった。また、有害事象を理由に摘出術を遅らさざるを得ない患者はなかった。
術前のPD-1遮断で全身、局所の抗腫瘍免疫を賦活
再発神経膠芽腫患者の全生存期間(OS)については、複数の報告によると6カ月から11カ月程度とされている。
研究グループは、抗PD-1抗体の術前後投与により、全身、腫瘍局所の両方での抗腫瘍免疫反応が強化されたことが延命効果につながったと結論した。その根拠は、T細胞受容体の遺伝子配列解析やmRNA発現プロファイリング、マスサイトメトリ―、定量的な多重蛍光免疫組織化学染色など、様々な解析技術を駆使して免疫反応の挙動から判断した。
すなわち、抗PD-1ネオアジュバント治療による抗腫瘍免疫システムへの好影響を示す指標として、インターフェロンガンマ(IFNγ)関連遺伝子の上行調節、再発腫瘍における細胞周期関連遺伝子の下行調節が確認されたことから、T細胞が仲介するIFNγ反応が腫瘍細胞の増殖を抑え、生存ベネフィットにつながったことが示された。IFN調節遺伝子産物の多くが腫瘍細胞の細胞周期の活動と増殖性を阻害することは既によく知られていることから、そうした細胞周期関連遺伝子の転写抑制が抗PD-1治療による有効性の分子学的特徴ともいえる。
研究グループは今後、患者登録数を増やし、科学的客観性の高いデザインでのネオアジュバント併用免疫療法の臨床試験を計画している。様々な角度からの分子学的、遺伝学的解析を実施し、神経膠芽腫術前免疫療法の合理的有効性を検証する意向を示している。
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