・上皮性卵巣がん、乳がん患者に対するAlpelisib+オラパリブ併用療法の安全性、有効性を検証
・基礎試験では、両剤の相互作用はDNA損傷時の相同組換え修復ステータスに関係なく確認
・予期せぬ治療関連有害事象も確認されず、相乗効果が期待できる抗腫瘍効果を確認
2019年3月14日、医学誌『The Lancet Oncology』にて上皮性卵巣がん、乳がん患者に対するPI3K阻害薬であるAlpelisib+PARP阻害薬であるオラパリブ(商品名リムパーザ;以下リムパーザ)併用療法の安全性、有効性を検証した第Ib相の用量漸増試験(NCT01623349)の結果がDana-Farber Cancer InstituteのPanagiotis A Konstantinopoulos氏らにより公表された。
本試験は、上皮性卵巣がん、乳がん患者に対して1日1回Alpelisib250~300mg+1日2回オラパリブ100~200mg併用療法を投与し、主要評価項目として最大耐量(MTD)、第II相試験推奨用量(RPIID)を検証した多施設共同非盲検下の第Ib相用量漸増試験である。
なお、コーホート別の用量設定は下記の通りである。ドーズレベル0は1日1回Alpelisib250mg+1日2回オラパリブ100mg、レベル1は1日1回Alpelisib250mg+1日2回オラパリブ200mg、レベル2は1日1回Alpelisib300mg+1日2回オラパリブ200mg、レベル3は1日1回Alpelisib200mg+1日2回オラパリブ200mgである。
本試験が実施された背景として、基礎試験の結果よりPARP阻害薬、PI3K阻害薬の相互作用はDNA損傷時の相同組換え修復(HRR)ステータスに関係なく確認されており、上皮性卵巣がん、乳がん患者に対して臨床的意義のある可能性が示唆されている。しかしながら、Alpelisibとは別のPI3K阻害薬Buparlisib+オラパリブ併用療法を実施した過去の臨床試験では、中枢神経系(CNS)、トランスアミナーゼ異常などの治療関連有害事象(TRAE)により、両剤の併用は忍容性に問題があることが確認されている。以上の背景より、本試験が実施された。
本試験に登録された上皮性卵巣がん(N=28人)、乳がん患者(N=4人)の背景はそれぞれ下記の通り。
年齢中央値
上皮性卵巣がん群=60歳(55-67歳)
乳がん群=46.5歳(33-64歳)
性別
上皮性卵巣がん群=女性100%(N=28人)
乳がん群=女性100%(N=4人)
性別
上皮性卵巣がん群=白人89%(N=25人)、その他11%(N=3人)
乳がん群=白人75%(N=3人)、その他25%(N=1人)
BRCA遺伝子ステータス
上皮性卵巣がん群=変異型36%(N=10人)、野生型61%(N=17人)、不明4%(N=1人)
乳がん群=変異型50%(N=2人)、野生型25%(N=1人)、不明25%(N=1人)
前治療歴中央値
上皮性卵巣がん群=3レジメン(2-5レジメン)
乳がん群=3.8レジメン(2-5レジメン)
病勢進行期
上皮性卵巣がん群=ステージIIAが0%、ステージIIBが7%(N=2人)、ステージIICが7%(N=2人)、ステージIIIBが0%、ステージIIICが57%(N=16人)、ステージIVが29%(N=8人)
乳がん群=ステージIIAが50%(N=2人)、ステージIIBが0%、ステージIICが0%、ステージIIIBが25%(N=1人)、ステージIIICが0%、ステージIVが25%(N=1人)
以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である用量制限毒性(DLT)はレベル0コーホートで0人、レベル1コーホートで0人、レベル2コーホートで2人(1人はグレード4の高血糖、1人はグレード4人の好中球減少症)、レベル3コーホートで1人(グレード3の高血糖)の患者で発現が確認された。
また、全ての患者における治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。グレード1の治療関連有害事象(TRAE)としては吐き気72%(N=23人)、倦怠感56%(N=18人)、高血糖53%(N=17人)、下痢50%(N=16人)、嘔吐44%(N=14人)、拒食症31%(N=10人)。グレード3の治療関連有害事象(TRAE)としては吐き気9%(N=3人)、高血糖9%(N=3人)、ALT上昇9%(N=3人)、倦怠感6%(N=2人)、嘔吐6%(N=2人)。グレード4の治療関連有害事象(TRAE)としては高血糖6%(N=2人)等である。
治療関連有害事象(TRAE)による治療中止はグレード3、グレード4の高血糖で2人、グレード2の吐き気、嘔吐で1人の患者で確認されている。また、治療関連有害事象(TRAE)による死亡は1人の患者も確認されなかった。なお、別のPI3K阻害薬Buparlisibで問題になったうつ病、不安症等の中枢神経系(CNS)の有害事象(AE)は、Alpelisibで問題にならなかった。
その他評価項目である上皮性卵巣がん患者群(N=28人)における客観的奏効率(ORR)は36%(95%信頼区間:7%-70%)、奏効率の内訳は部分奏効36%(N=10人)、病勢安定50%(N=14人)、病勢進行(PD)11%(N=3人)、評価不能4%(N=1人)を示した。奏効持続期間(DOR)中央値は5.5ヶ月(95%信頼区間:2.2-6.8ヶ月)、無増悪生存期間(PFS)中央値は7.2ヶ月(95%信頼区間:4.9-9.0ヶ月)、全生存期間(OS)中央値は21.3ヶ月(95%信頼区間:11.4-23.7ヶ月)を示した。
以上の用量漸増試験の結果よりPanagiotis A Konstantinopoulos氏らは以下のように結論を述べている。”上皮性卵巣がん患者に対するAlpelisib+リムパーザ併用療法は予期せぬ治療関連有害事象(TRAE)も確認されず、相乗効果が期待できる抗腫瘍効果が確認されましたので、引き続き本治療の臨床的意義を検証する試験の実施が必要とされるでしょう。”
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