オンコロの可知です。
先週、11月15日、16日にサンフランシスコにて開催された第11回クリニカルトライアルズ・イノベーション・プログラムというプログラムに参加してきました。World BIグループが開催するビジネスコンベンションとなり、製薬企業・バイオスタートアップ、開発業務受託機関(CRO)、ヘルステックなど会社53社、約100名が参加しました。
今回の目的は、海外の企業にオンコロの活動を広め、日本におけるがん分野の裾野を広げようという試みです。オンコロの企業取引の10%程度は海外企業になっていますが、世界中のがんへの有意義な取り組みを日本にもっと持って来たいと思います。
目次
オンコロのケアと活動に称賛アリ
プログラム中、当社の海外営業担当のモハンマド・イムランがオンコロの紹介をしました。 内容は、「私が患者さん向けのセミナーにてよく話している『治験情報発信についての問題点』をベースにしたオンコロの活動の意義」です。
特に「治験広告でクライテリアに合致していない患者さんに対しても、可能な限りその人が参加できそうな治験情報を提供する」という取り組みに対して、Ovarian Cancer Alliance of San Diego(サンディエゴ卵巣がん患者会連絡会)の代表Peg Ford氏、サンフランシスコの医療機関発の神経系領域のバイオスタートアップNOAH Phemaceuticalsの医学アドバイザーFunmin Ajayi氏から、「Thank you for your Great Work」と称賛を頂き嬉しく思います。
オンコロを紹介するイムラン
クリニカルトライアル・イノベーション間近
今回、プレクリニカルや臨床開発全体に波及した内容(チームビルドの方法・臨床試験におけるリスク等)が比較的多いものでした。その中でも、臨床試験をいかに効率的に早く終了させるかという観点から、被験者募集・患者中心というキーワード、バスケットスタディというデザイン、リアルワールドエビデンス・訪問治験・バーチャル治験といったイノベーションの導入についてのプレゼンテーションが多くみられました。そのいくつかを紹介します。
リアルワールドエビデンスについて
世界有数の心疾患系の医療機器メーカーであるアボット社では、米国で心疾患系の臨床試験にてリアルワールドエビデンスを活用しています。
肺高血圧症患者の心血管にピローを入れ、血圧をセンサーによりドクターに飛ばし、患者の血圧状態を遠隔で管理し、心房細動等の心血管疾患の予防により入院回数を減らすという医療機器を開発。臨床試験は550人の患者を対象に実施して良好な結果を得ましたが、その後、米国のビッグデータを用いて2,000人までデータを拡大し、最終的には33%の入院数の減少したエビデンスを取得しました。
この際に用いたビッグデータの基盤は、企業のデータ50万、医療機関等100万、公共のデータソース5000万、患者ソース100万という巨大なものとなります。このような各機関・業界にまたがるデータを横断的に用いることが米国では可能となるとのことでした。また、これらを連携する機能を有するのも米国ならではとも思いつつ、日本のナショナルデータベースとなるMID-NETの台頭に期待したいところです。
ペイシェント・エクスペリエンス・データ
バイエル社は、ペイシェント・エクスペリエンスを治験に取り入れようとする動きは、米国で施行された21st Century Act Provision(詳しく知りたい方はコチラ)に基づいているとのことです。
近年の改定にて、これまで漠然として患者の経験を中心に治験を実施していくという内容から、具体的に経験値の共有方法を示すようになりました。例として、ジェネティック社が2017年に上市した抗がん剤(RITUXAN HYCELA)は世界で最初のPRO(Patient Reported outcome)データが承認審査に活用されたことにふれています。
2018年11月8日にはFDAからITツールを用いて治験を推進していく旨の声明が出されており、これはアップル社のリサーチキットの活用を指しており、FDAも積極的に患者治験・IOTによる治験促進を働きかけているとのことです。
訪問治験~希少疾患や身動きが取れない対象の治験を中心に展開~
カルフォルニアの開発業務受託機関(CRO)であるFIRMA社は、近年日本でも導入され始めた訪問治験について発表。訪問治験の歴史は希少疾患から始まり、最初は採血を自宅で行うような簡易的なものであったものの、現在は治験薬の投与、ケアギバー・看護士へのトレーニングと業務範囲も増えています。
在宅治験は、特に遠隔に住んでいて治験に参加できない患者や、心・呼吸器系疾患のため動きが制限されている患者に適しています。希少疾患の治験は患者の数が限られているため、特にこの傾向が強いものとなります。この点から同社は疾患・患者特性に詳しい患者会と提携し、サポートマテリアル、トレーニングキットの作成等を共同で行っています。
患者会やファウンダーの役割
神経疾患領域の研究基金であるThe Michael J. Fox Foundationは、財団内に脳神経科学者15名を擁し、アルツハイマー病を中心にCNS領域の開発コンサルテーションを行っているとのことです。その中で、21,000人のパーキンソン病患者の大規模なオンラインリサーチを実施しています。この研究は、対照群に健常人やケアギバーとした前向き研究であり、その結果は治療開発に役立てているとのことです。オンラインリサーチとはいえ、日本ではこのような大規模な研究は見たことがありません。
一方、サンディエゴの卵巣がんアドボカシーグループであるOvarian Cancer Alliance of San Diegoは、5,000人の会員を有します。米国では、アドボカシーグループのメンバーを新薬の承認審査、ガイドライン策定、IRBに入れる動きが既に行われており、患者がディシジョンメイカーとしての役割を担うようになっているとのことです。こちらは日本でも徐々に広まりつつあり、実際にプロトコル構成に患者会が関与し始めており、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインにも2人のがんサバイバーが参画しています。なお、代表のPeg氏は日本の患者会の人物を一人も知らないとのことで、海外との壁を少し感じました。
Ovarian Cancer Alliance of San DiegoのPeg氏と共に
がん関連のバイオベンチャー
サンフランシスコを中心としたバイオベンチャーが参加していましたので、そのいくつかを紹介します。皆さんのご存知の会社はありますか?
CytomXは「Probody(プロボディ)」という、がん細胞だけに結合する抗体を作り出す特殊技術を有する。プロボディはがん細胞のみに結合するために副作用を軽減できるとされる。現在、最も開発進んでいるのが、PD-L1標的プロボディであるCX-072となりP1/2試験実施中である他、ブリストルマイヤーズ社とCTLA-4標的プロボディとなるBMS-986249の第1相試験実施中となる。その他に、CD166やCD71など免疫関連のプロボディを開発中。
プロボディについてはこちらを参照
Regeneronは、がん、自己免疫疾患、COPDおよびアトピー性皮膚炎など、非常に多くのコンパウンドを有す大型バイオベンチャー。PD-1抗体Cemiplimab(米国商品名LIBTAYO)は転移性皮膚扁平上皮がん適応にてFDA承認されており、非小細胞肺がんや子宮頸がんなどでの臨床開発が大詰めとなる。その他、Cemiplimabと自社の有するLAG-3抗体やCD20 X CD3二重特異抗体REGN1979との併用療法の第1相試験が実際されている。
AntibaioはHPV関連がんに有効な非環式ヌクレオシドホスホン酸ABI-1968を有する。現在、子宮頸部上皮内腫瘍(ステージ0子宮頸がん、子宮頸部上皮内がん)や肛門上皮内腫瘍などのHPV関連上皮内がんに対して第1相試験を実施中。上皮内がんの被験者募集は難しいとのことであるが、日本含めアジアへの進出も考えているようだ。
Acerta PhamaはBTK阻害薬Acalabrutinibを有するアストラゼネカのグループ会社。B細胞系の悪性リンパ腫の治験が進み、日本ではアストラゼネカが開発をすすめる。
Atrecaはがん免疫療法にて3つのパイプラインを有する。今年9月には120万ドルの資金調達をしており、2019年中に第一相試験が開始される。
Clovis Oncologyは、PARP阻害薬ルカパリブやVEGF系マルチキナーゼ阻害薬ルシタニブなどを有す。ルカパリブの臨床開発は進んでおり、最終フェーズといえる(コチラ)。両薬剤ともニボルマブ(オプジーボ)との併用療法の開発も進み、なかでもルカパリブとオプジーボの併用療法は、トリプルネガティブ乳がんと前立腺がんにてすすむ。
Dendreonは、唯一、FDA承認を取得している樹状細胞免疫療法プロベンジを有する。適応は転移性去勢抵抗性前立腺がんとなり、現在、アジアへの臨床開発を目論む。
MEI Pharmaは、HDAC(エイチダック)阻害薬Pracinostat、PI3KΔ阻害薬ME-401、経口CDK阻害薬Voruciclib、ミトコンドリア阻害薬(OXPHOS標的薬)ME-344を有す。ターゲット疾患は前3つは血液がん、最後の一つはHER2陽性乳がんとなる。現在、臨床開発段階となっているのはPracinostatのみ。
Nektarは、免疫系に強いバイオベンチャー。CD122バイアスアゴニストNKTR-214などPD-1抗体と併用の開発が進む。
ORIC Pharmaceuticalsは、グルココルチコイド・アンタゴニストORIC-101を有し、トリプルネガティブ乳がんをターゲットに開発中。現在、第一相試験が終了したとのこと。
日本がカントリーセレクションに生き残るために
この他にも希少疾患領域のバイオテックが多く見られました。上記の企業がすべて成功するわけではないと思いますが、企業にとっても患者にとっても夢のあることと感じました。そして、オンコロの役割は彼らのカントリーセレクションで日本が選ばれることに寄与することです。海外バイオベンチャーにとっては、アジア、特に日本への参入が難しいとされます。それは、コストが高いということもありますが、日本という国の臨床開発の仕組みを全く知らないからです。
(これはオンコロのビジネス戦略でもありますが、)日本の臨床試験の仕組みを伝え、治験の参加候補となり得る患者がどのように感じて生活しているかなど治験のリクルートメントとしてのコツを伝え、一つでも多くの薬剤が日本で開発できるようになればと思っています。
文:可知 健太、柿木 博之
この記事に利益相反はありません。