7月8日、アッヴィ合同会社は、開発中の抗体薬物複合体「ABT-414」について、悪性神経膠腫の国内第1/2相臨床試験を開始すると発表しました。
ABT-414は、分子標的薬に細胞傷害性抗がん剤を結合したタイプの薬剤となり、ターゲット分子は上皮成長因子受容体(EGFR)です。従来の分子標的薬はホーミングミサイルだとすると、強力な爆薬を積んだホーミングミサイルであると言えます(あくまでもイメージです)。
今回、悪性脳腫瘍の中で最も多いグレードIIIおよびIVの悪性神経膠腫と診断され、既に外科的腫瘍摘出術および放射線化学療法を受けられた後の再発・難治性神経膠腫の方を対象とした、第1/2相臨床試験となり、本治験の開始時期は本年8月頃、参加医療機関は6~7施設、参加患者は45人程度の予定。(治験コード:M13-714)
治験調整医師を担当される国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科の成田 善孝先生は、次のように述べているとのこと。
「悪性神経膠腫で最も多い膠芽腫は最も予後の悪い癌腫の一つで、膠芽腫は急速に脳の中で増大するため、再発してしまうと有効な治療法がありません。患者数も少なく、使用できる薬剤の種類も限られており、少しでも有効な治療薬の開発が必要です。膠芽腫ではEGFRの過剰発現や変異が見られ、これらの分子異常がみられる膠芽腫は特に予後不良のために、このEGFRを標的とした様々な治療が考案されています。ABT-414はEGFRとの結合を介して、腫瘍細胞内へ直接的に抗がん作用のある物質を送り込む作用機序を有しています。ABT-414の作用機序および臨床試験成績から膠芽腫に対する効果が期待できますので、本治験において安全性・有効性を確認していきたいと思います」
*Clinical trials.gov、JAPIC、UMIN登録は今のところなし。わかり次第掲載予定。
【海外での臨床試験成績】
海外で既に実施された第I相試験の結果は2014年および2015年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)等にて発表されており、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の増幅が認められた27例のうち6例(22%)に、明らかな腫瘍の縮小効果が認められ、海外では第II相試験が実施中です。なお、本剤は膠芽腫に対する希少疾病用医薬品の指定を米国で2014年6月、欧州で2014年7月に受けています。
【神経膠腫について(アッヴィ合同会社プレスリリース転載)】
悪性神経膠腫は、神経膠腫におけるグレードIからグレードIVのうち、悪性度が高いグレードIIIおよびグレードIVに該当します。国内で実施された脳腫瘍全国集計調査結果(2001-2004年調査)および国内の人口を考慮すると、1年間の罹患率は約3,300人程度と予想されています。
悪性神経膠腫の症状は、腫瘍や腫瘍周囲浮腫が脳のどの機能に影響を与えるかで決まり、局所症状(運動麻痺、感覚障害、失語症、視野障害)、痙攣発作などがあります。腫瘍が大きくなると、頭蓋骨内圧亢進による症状(頭痛、悪心、嘔吐)がみられます。
悪性神経膠腫の患者数のうち、約90%は退形成性星細胞腫(グレードIII)と膠芽腫(グレードIV)で、特に膠芽腫は発病から数週間のうちに症状が進行します。膠芽腫の5年累積生存率は約10%と、あらゆる癌腫の中で最も予後不良な癌の一つです。退形成性星細胞腫でも5年累積生存率は約40%程度です。膠芽腫の平均年齢は60歳前後で、60歳以上の高齢者が半数を占めますが、20歳未満の小児にも発生します。治療として、新たな神経症状を出さないように可及的に腫瘍を摘出し、その後放射線治療とテモゾロミドというアルキル化剤による放射線化学療法を行います。また、血管新生抑制薬のベバシズマブなども使われます。
記事:可知 健太