9月25日から29日までオーストリア・ウィーンで開催された欧州臨床腫瘍学会学術集会(ECC2015)で、HER2(はーつー)陰性の進行性または転移性の乳がん患者の一次治療として、エリブリン(薬剤名:ハラヴェン注射)は高い有効性を示し、さらにアントラサイクリン(薬剤名:アドリアマイシン注射など)および、またはタキサン(薬剤名:タキソテール注射、タキソール注射など)による術前化学療法、術後補助化学療法療法を受けていない患者で効果が高いことが、日本人患者を対象とした第2相臨床試験から示され、住友病院外科の西村重彦氏によって発表されました。
現在までに、HER2陰性の局所進行または転移を有する乳がんの一次治療として、ハラヴェンは高い有効性と安全性に対し許容可能であることが報告されており、西村氏らも、今年5月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2015)で、日本人患者を対象とした第2相臨床試験において、1次治療としてのハラヴェンは54.3%と高い奏効率(一定以上腫瘍が縮小した割合)を示したことなどを報告しています。
今回の発表では、ハラヴェンを必ず使用するの第2相臨床試験で、一次治療としてのハラヴェンの有効性に関連する因子を探索するための解析結果が発表されました。
対象は、HER2陰性の再発または転移を有する乳がん患者でCT等の画像検査で腫瘍の大きを計測できる方、且つ進行または転移に対する化学療法の治療歴が行われていないことが主な条件でした。
治療は21日を1サイクルとし、エリブリン1.4mg/㎡を1日目と8日目に静脈内投与されました。
周術期(手術前後)に化学療法を受けなかった方で、より高い奏効率
ポインは以下の通り。
【患者の構成】
35人が参加、年齢中央値は64歳。
‐ 閉経前の患者9人、閉経後の患者26人
‐ ホルモン受容体(HR)陽性の患者28人(80%)、トリプルネガティブ患者7人(20%)でした。
‐ 手術不能な患者は14人、再発の患者は21人
‐ 術前化学療、術後補助化学療法療法を受けた患者は15人
(アントラサイクリンを受けていた患者は10人、タキサンを受けていた患者は9人)
【奏効率(一定以上腫瘍が縮小した患者の割合)】
◆全体
奏効率:54%
‐ 完全奏効(腫瘍消失):2人(6%)
‐ 部分奏効(腫瘍縮小):17人(49%)
◆さまざまな場合での奏効率
ホルモン受容体陽性乳がん患者:53%
トリプルネガティブ乳がん患者:57%
アンスラサイクリンやタキサンによる術前化学療法、術後補助化学療法療法を受けた患者の奏効率:30%
アンスラサイクリンやタキサンによる術前化学療法、術後補助化学療法療法を受けなかった患者の奏効率:64%
【その他】
癌の進行を抑えていた期間も生存期間も、アンスラサイクリンやタキサンによる術前化学療法、術後補助化学療法を受けていない患者差の方がより長い傾向。引き続き解析中。
【安全性】
安全性については過去に行われた臨床試験の報告と一致する結果で、好中球減少や感覚神経障害が中等度から重度の有害事象が観察されたましたが、その他は多くがグレード2(中等度以下)以下でした。
西村氏は、「単剤による一次治療の治療結果として、エリブリンはこれまでの報告と比較して優れた効果を示したと結論付け、さらにアンスラサイクリンやタキサンによる化学療法を受けていない患者については、エリブリンの有効性と安全性に関する報告はこれまでほとんどなく、
今回の検討で、アンスラサイクリンやタキサンによる化学療法を受けていない患者で有効性が高く、副作用の発現内容は過去の報告と差がなかったことが判明し、アンスラサイクリンやタキサンの投与を受けていないことが、一次治療としてのエリブリンで高い奏効率と無増悪生存期間の延長が得られる予測因子となる可能性があると評価しました。
ECC2015 Abstract No.1859参照
記事:前原 克章(加筆修正:可知 健太)
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