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HR陽性・HER2陰性の進行乳がんを対象とするCDK4/6阻害薬リボシクリブの第3相試験
ホルモン療法フェマーラ併用で病勢進行リスク低下、フェマーラ単剤との有意差達成 NEJM
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬リボシクリブ(ribociclib;LEE011)が、ホルモン受容体(HR)陽性・上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性の閉経後乳がん患者の初診、もしくは再発または転移状態となってからの初の全身治療として、レトロゾール(商品名フェマーラ)と併用投与することにより、病勢進行リスクを44%低下させることが示された。
2016年10月7日から11日にデンマークで開催された第40回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)プレジデンシャルシンポジウムで、米国Texas大学M.D.AndersonがんセンターのG.N.Hortobagyi氏らにより第3相試験(MONALEESA-2、NCT01958021)の結果が発表され、10月8日のNew England Journal of Medicineにも論文が掲載された。
試験デザイン・方法~フェマーラ単剤vsフェマーラ;リボシクリブ併用~
ホルモン受容体(HR)陽性・上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性の閉経後乳がん患者で、初診進行、もしくは術前/術後治療後再発または転移と判定された668人を対象とする無作為化二重盲検試験で、フェマーラ(2.5mg 1日1回経口投与)と併用でリボシクリブ1日600mg、またはプラセボを3週間連日経口投与後1週間休薬するサイクルを反復した(各リボシクリブ併用群、フェマーラ単剤群)。
2014年1月24日から2015年3月24日、米国、欧州、オーストラリア、韓国、ロシアなど29カ国、223施設でリボシクリブ併用群に計334人、フェマーラ単剤群に計334人が登録された。主要評価項目は固形がん腫瘍反応(RECIST)試験者判定による無増悪生存(PFS)期間、副次評価項目は全生存期間(OS)、全生存率、安全性などであった。
有効性中間解析~病態進行リスク44%低下~
データカットオフの2016年1月29日時点で、リボシクリブ併用群195人、フェマーラ単剤群154人が治療継続中で、治療期間中央値はそれぞれ13.0カ月、12.4カ月であった。主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値は、リボシクリブ併用群では特定に至らず、フェマーラ単剤群では14.7カ月で有意差を達成し、ハザード比(HR)は0.56であった。治療12カ月後、および18カ月後の無増悪生存率は、リボシクリブ併用群(各72.8%、63.0%)がフェマーラ単剤群(各60.9%、42.2%)を上回った。無増悪生存期間は第三者機関盲検判定でも有意差を達成し、ハザード比(0.59)も同程度であった。また、無増悪生存期間は年齢(65歳未満、または65歳以上)、ECOGパフォーマンスステータス(スコア0、または1)、ホルモン受容体発現状態(エストロゲン受容体(ER)陽性、かつプロゲステロン受容体(PR)陽性、またはその他)、肝転移または肺転移の有無、骨病変のみの有無、初診または非初診、内分泌療法歴の種類、あるいは化学療法歴の有無などの層別解析でも、すべてリボシクリブ併用群がフェマーラ群よりすぐれ、ハザード比(HR)はいずれも1.0を下回った。
全解析対象における全奏効率は、リボシクリブ併用群(40.7%)がフェマーラ単剤群(27.5%)と比べ有意に高く、リボシクリブ併用群は完全奏効(CR)9人、部分奏効(PR)127人、フェマーラ単剤群ではCRが7人、PRが85人であった。病勢安定(SD)が24週以上持続した患者を含めた臨床的有益率もリボシクリブ併用群(79.6%)がフェマーラ単剤群(72.8%)と比べ有意に高かった。
全生存期間(OS)は中間解析では中央値特定に至らず、データカットオフ時点での死亡患者数はリボシクリブ併用群が23人、フェマーラ単剤群が20人であった。
→要するに、「フェマーラ単剤よりもフェマーラにリボシクリブを追加した方が病態進行リスクは44%低下して統計学的にも有意差が認められた。治療開始から12か月または18か月時点で病態進行していなかった割合もリボシクリブ併用群の方が高かった。このことは様々な条件で解析してもその傾向が認められた。奏効率についてもリボシクリブ群が有意に高かった。生存については結論に至っていない。」ということです。
安全性中間解析~CDK4/6阻害薬によって骨髄抑制に伴う副作用が発現~
リボシクリブ併用群では、骨髄抑制に伴う有害事象がフェマーラ単剤群より多く発現した。いずれかの治療群での発現率が5%以上であったグレード3、またはグレード4の有害事象は、好中球減少症(リボシクリブ群59.3%、フェマーラ単剤群0.9%)、白血球減少症(各21.0%、0.6%)、高血圧(各9.9%、10.9%)、肝酵素ALT上昇(9.3%、1.2%)、リンパ球減少症(各6.9%、0.9%)、および肝酵素AST上昇(各5.7%、1.2%)であった。発熱性好中球減少症はリボシクリブ群の5人(1.5%)に認められ、フェマーラ単剤群では認められなかった。治療との因果関係が否定できない重篤な有害事象は、リボシクリブ併用群25人(7.5%)、フェマーラ単剤群5人(1.5%)に発現した。
リボシクリブ併用群で認められた血液学的有害事象は、リボシクリブの分子標的作用、すなわち、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害作用を反映するもので、可逆的ではあるが骨髄幹細胞が静止状態に陥ったことが示唆された。
作用機序
リボシクリブの標的分子であるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6は、細胞周期を移行させる蛋白質サイクリンに依存する蛋白リン酸化酵素の複合体で、G1期からS期への移行を進めるアクセル役として機能している。がん細胞は細胞周期に何等かの異常を持ったまま細胞周期の回転を止めないで増殖するため、リボシクリブはCDK4/6の働きに介入することでS期への突入を阻止し、増殖を停止、細胞死を誘導すると考えられている。類薬として、パルボシクリブやアベマシクリブがあるが、日本では承認されていない。
フェマーラは、女性ホルモンであるエストロゲンが合成される際に働く酵素アロマターゼを阻害するホルモン療法薬である。増殖するためにエストロゲンを必要とするタイプの乳がん細胞が多いことから、女性ホルモンを感知するエストロゲン受容体(ER)、またはプロゲステロン受容体(PR)の発現陽性の乳がんの治療には、エストロゲンの働きを抑制するホルモン療法(内分泌療法)が選択される。エストロゲンの生成経路は閉経前と閉経後で変化し、閉経前は卵巣で作られるのに対し、閉経後は卵巣機能が低下してエストロゲンが減少するため、代わりに副腎から分泌される男性ホルモンのアンドロゲンを利用し、脂肪組織などに存在する酵素アロマターゼの働きでエストロゲンが作られ続ける。したがって、フェマーラは閉経後の乳がんが適応症である。
Ribociclib as First-Line Therapy for HR-Positive, Advanced Breast Cancer(October 8, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1609709)
記事:川又 総子 & 可知 健太
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