慢性リンパ性白血病(CLL)から急速に進行するリヒター症候群患者を対象とし、次世代ブルトン型チロシンキナー(BTK)阻害薬アカラブルチニブを単剤投与した結果、38%の奏効率が得られたほか、24%の患者に病勢安定(SD)が認められた。初代BTK阻害薬イブルチニブ(商品名イムブルビカ)の治療に失敗した患者でも奏効が得られたことから、予後不良で有効な治療法のないリヒター症候群に対する実用可能性が示唆された。
2016年12月の米国血液学会(ASH)で、イギリスChurchill病院がんセンターのPeter Hillmen氏らが第1/2相単群非盲検試験(ACE-CL-001、NCT02029443)の中間結果を発表した。
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CLLから急性転化患者(リヒター症候群)対象としたアラカブルチニブ単剤投与の臨床試験 ~イムブルビカ治療歴患者にも奏効の可能性~
2016年6月1日までに29人のリヒター症候群患者を登録し、アカラブルチニブ200mgを1日2回経口投与した。主要評価項目は、有害事象の発現率や重症度といった安全性と忍容性、副次評価項目は奏効率や無増悪生存(PFS)期間、奏効持続期間などであった。
その結果、29人の年齢中央値は66歳で、18人(62%)は60歳以上であった。CLLと初めて診断されてからの時間中央値は5.4年で、全身療法歴の中央値は4療法、12人(41%)はイムブルビカの治療歴があった。
全29人におけるアカラブルチニブの治療期間中央値は2.1カ月で、8人(28%)はデータカットオフ時も治療を継続していた。グレード3以上の有害事象は59%に発現し、主に好中球減少症(3人)、貧血(3人)、背部痛(3人)、高カルシウム血症(3人)、疲労(2人)、無力症(2人)、および急性腎障害(2人)であった。死亡10人のうち、6人の死因は病勢進行(PD)で、2人の死因はいずれもアカラブルチニブとの関連がないグレード5の脳膿瘍、およびグレード5の敗血症であった。残り2人の死因は不明であった。21人が治療を中止し、15人の中止理由はPD、3人はPDによる死亡であった。
有効性解析対象21人において、完全奏効(CR)3人(14%)と部分奏効(PR)5人(24%)を含めた奏効率は38%で、これら奏効8人の奏効持続期間中央値は5.7カ月であった。CRの2例は幹細胞移植術を受けるまで回復した。奏効例には、イブルチニブの治療歴があった6人中3人が含まれた。加えて、病勢安定が5人(24%)に認められ、無増悪生存(PFS)期間中央値は3.2カ月であった。
リヒター症候群の治療困難度を考慮して標準用量を倍増
本試験では、アカラブルチニブの用量を標準用量の2倍となる1回200mgとした。Hillmen氏は、「悪性度の高いリヒター症候群に対抗するための試み」とし、「200mgの1日2回投与でも予期しない有害事象は認められず忍容性は良好で、発現した有害事象の多くは基礎疾患に起因したもの」とコメントしている。有害事象を理由とする治療中止例は認められていない。
なお、本試験に登録された再発、または難治性の慢性リンパ性白血病(CLL)患者には、第2相部分で100mgが1日2回経口投与された。追跡期間中央値14.3カ月の時点で奏効率が95%に達し、リヒター症候群に移行した患者はなかった(The New England of Medicine誌374巻4号323ページ[2016年1月28日])。
アカラブルチニブは初代イムブルビカの有用性向上を目的に開発された
ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を介するB細胞受容体シグナル伝達は、CLLが増殖、生存する上で必須の経路であるため、BTK阻害薬の登場はCLLの治療を大きく前進させ、新たな治療薬として認識されつつある。日本では、イムブルビカが2016年5月から販売され、再発、または難治性のCLL(小リンパ球性リンパ腫[SLL]を含む、およびマントル細胞リンパ腫(MCL)患者の治療に用いられている。イムブルビカもアカラブルチニブもBTKを不可逆的に阻害するが、アカラブルチニブはBTK阻害の選択性がイムブルビカよりも高いため、標的外キナーゼ阻害に起因する有害事象を回避しつつ、有効性を発揮することが期待されている。
欧米では、CLLは成人の白血病で最も多く、毎年10万人あたり4.7人がCLLと診断されている。リヒター症候群に転化するのはCLL患者のうち約5%から10%で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に移行することが多い。リヒター症候群に移行すると予後不良で、無増悪生存(PFS)期間中央値はおよそ6カ月、全生存期間(OS)中央値は8カ月から10カ月と報告されている。
記事:川又 総江
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