プログラム細胞死受容体1(PD-1)を標的とする抗体である免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)は、PD-1リガンド(PD-L1)発現陽性で切除不能の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の適応で承認されている。
非小細胞肺がん(NSCLC)のキイトルーダによる初回治療で、単独療法、あるいは化学療法との併用療法のいずれにおいても高い有用性が証明されつつある。免疫チェックポイントを阻害する治療法は、組織型や標的リガンドの発現レベルといった条件が異なる患者集団でも長期的な有用性が示唆され、抗腫瘍免疫を活性化することで二次治療の転帰にも好影響をもたらす可能性が示された。
目次
米国臨床腫瘍学会で示された非小細胞肺がん初回治療のキイトルーダ単独または併用の長期フォローアップデータ
2017年6月2日から5日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、キイトルーダの2つの臨床試験の最新データが発表された。初回治療としてキイトルーダ単独療法を化学療法と比較する第3相試験(KEYNOTE-024、NCT02142738)では死亡リスクが37%低下し(Abstract9000)、キイトルーダと化学療法の併用療法を評価した第1/2相試験(KEYNOTE-021、NCT02039674)では、ペメトレキセド(商品名アリムタ)×カルボプラチン(商品名カルボプラチン)にキイトルーダを追加することで奏効率が2倍近く上昇した(Abstract9094)。
KEYNOTE-024:PD-L1高発現の転移性非小細胞肺がんに対するキイトルーダ単独の初回治療
腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現していることを確認した305例をキイトルーダ単独療法群、または標準療法のプラチナ製剤を用いた化学療法群に無作為に割り付け治療した(各154例、151例)。非扁平上皮型、扁平上皮型の組織型は問わず登録した。キイトルーダは200mgを21日ごとに静注し、化学療法群は、パクリタキセル(商品名タキソール)×カルボプラチン、ペメトレキセド×カルボプラチン、ペメトレキセド×シスプラチン(商品名シスプラチン)、ゲムシタビン(商品名ジェムザール)×カルボプラチン、またはゲムシタビン×シスプラチンが選択された。
本解析の追跡期間は14.3カ月から27.6カ月で(中央値19.1カ月)、前解析から約8カ月経過し、治験実施計画に従い、化学療法群からキイトルーダ群にクロスオーバーした79例と、クロスオーバー以外で抗PD-1抗体による治療を受けた12例も解析対象に含めた。
その結果、キイトルーダ群の全生存期間(OS)は中央値特定に至っておらず、化学療法群では中央値14.5カ月で、キイトルーダ群は化学療法群と比べ死亡リスクが37%低下したことが示された(p=0.003、ハザード比(HR)=0.63)。12カ月生存率は、キイトルーダ群が70.3%、化学療法群が54.8%、18カ月生存率はそれぞれ61.2%、43.0%であった。
日本臨床腫瘍学会では、非小細胞肺がんに対するキイトルーダ単独の初回治療の日本人データが発表
一方、2017年7月27日から7月29日に開催された日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2017)のプレナリーセッション(最も優秀な演題)の1つとして、(上述の)KEYNOTE-024試験の日本人データが兵庫県立がんセンター呼吸器内科の里内美弥子氏より発表された。
本試験に参加した日本人は40名であり、キイトルーダ群に21名、化学療法群に19名が割り付けられた。フォローアップ中央値11.2か月の時点での解析結果によると、日本人集団の無増悪生存期間(PFS)の中央値はキイトルーダ群到達せず、化学療法群4.1か月にてハザード比0.35(95%Cl 0.14‐0.91)にて65%の進行リスクの減少が認められた(全集団のハザード比は0.50)。奏効率(ORR)は、キイトルーダ群で57.1%(95%Cl 34.0‐78.2%)、化学療法群で21.1%(95%Cl 6.1‐45.6%)であった(全集団のORRはキイトルーダ群44.8%、化学療法群27.8%)。全生存期間(OS)の中央値は両群とも未到達であるが、ハザード比0.40(95%Cl 0.10‐1.61)となり、キイトルーダ群では死亡リスクが60%減少した(全集団のハザード比は0.60)。
日本人集団におけるグレード3以上の副作用はキイトルーダ群で33%、化学療法群で27%、肺臓炎の割合はキイトルーダ群で5%、化学療法群で3%であった。
キイトルーダの初回治療が二次治療後の有益性維持にも寄与
当初割り付けられた治療から次の治療(二次治療)に移行した後の無増悪生存(PFS2)を指標とする病勢コントロールは、最初にキイトルーダに割り付けられた患者集団の方が最初に化学療法に割り付けられた患者集団よりすぐれ、PFS2中央値は最初キイトルーダ群(18.3カ月)が最初化学療法群(8.4カ月)より約10カ月延長した。二次治療開始後の病勢進行、または死亡のリスクは最初キイトルーダ群が最初化学療法群と比べ46%有意に低下し(p<0.001、HR=0.54)、12カ月後のPFS2率は最初キイトルーダ群が59.7%、最初化学療法群が38.5%、18カ月後のPFS2はそれぞれ51.0%、24.6%であった。
KEYNOTE-021:非扁平上皮型の転移性非小細胞肺がんに対するキイトルーダ×化学療法併用の初回治療
腫瘍組織のPD-L1発現レベルを問わず123例をキイトルーダ×化学療法(アリムタ/カルボプラチン)併用群(以下キイトルーダ併用群)、または化学療法(アリムタ/カルボプラチン)群(以下化学療法単独群)に割り付け治療した(各60例、63例)。
本解析の追跡期間は0.8カ月から24.0カ月(中央値14.5カ月)で、前解析から約5カ月経過し、治験責任医師の判断で、両群とも維持療法としてアリムタの投与を可能にした。
その結果、キイトルーダ併用群の奏効率(56.7%)は化学療法単独群(30.2%)と比べ有意に高く(p=0.0016)、奏効持続期間はキイトルーダ併用群で中央値特定に至っておらず(1.4カ月以上から18.6カ月以上)、化学療法単独群(中央値16.2カ月)を上回って経過中である。
無増悪生存(PFS)期間もキイトルーダ併用群は中央値特定に至っておらず(8.5カ月から未到達)、化学療法単独群(中央値8.9カ月)より有意に延長することが確定し、病勢進行、または死亡のリスクは50%低下することが示された(p=0.0038、HR=0.50)。9カ月のPFS率は、キイトルーダ併用群が63.2%、化学療法単独群が48.1%、12カ月後のPFS率はそれぞれ56.4%、33.9%であった。
キイトルーダと化学療法併用でPD-L1発現レベルによらず奏効率上昇
PD-L1発現レベルによる奏効率の層別解析結果を下記に示す。
発現陰性(発現細胞1%未満):キイトルーダ併用群62% 化学療法単独群13%
発現陽性(発現細胞1%以上):キイトルーダ併用群54% 化学療法単独群40%
低発現(発現細胞1%~49%):キイトルーダ併用群26% 化学療法単独群39%
高発現(発現細胞50%以上):キイトルーダ併用群80% 化学療法単独群41%
二次治療でキイトルーダを追加した患者を含め1年後の推定奏効率は80%超
化学療法単独群で二次治療を受けた48例中、抗PD-1抗体、または抗PD-L1抗体を投与したのは36例(75%)で、そのうち22例は本試験のクロスオーバーによりキイトルーダが 投与された。全生存期間(OS)中央値は、これらの患者を含むキイトルーダ併用群、または化学療法単独群のいずれにおいても特定には至らず、統計学的有意差には達しなかったものの、キイトルーダ併用群は化学療法単独群と比べ死亡リスクが31%低下した(p=0.13、HR=0.69)。そして、9カ月の時点で奏効率はキイトルーダ併用群が84.6%、化学療法単独群が76.0%、12カ月の時点ではそれぞれ82.3%、69.3%と推定された。
キイトルーダの安全性はこれまで報告されているものと同様で、化学療法との併用で発現したグレード3からグレード5の因果関係が否定できない有害事象は、主に貧血(11.9%)、好中球数減少(6.8%)、倦怠感(3.4%)などであった。全グレードの免疫関連有害事象は、甲状腺機能低下症(11.9%)、甲状腺機能亢進症(8.5%)、間質性肺疾患(6.8%)などであった。
以上、PD-L1高発現の転移性非小細胞肺がん(NSCLC)患者におけるキイトルーダ単独療法による初回治療は、扁平上皮型、非扁平上皮型の組織型を問わず、従来の標準的化学療法よりも病勢コントロールにすぐれ、二次治療に移行した後も効果の持続性が示唆された。非扁平上皮型転移性NSCLC患者におけるキイトルーダと化学療法併用による初回治療は、腫瘍組織のPD-L1発現レベルを問わず、従来の標準的化学療法よりも高い奏効率をもたらし、二次治療からキイトルーダとの併用投与を開始した患者を含めて生存ベネフィットを維持することが示唆された。
PD-L1高発現の未治療非小細胞肺癌に対するペムブロリズマブの国際共同ランダム化第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024)の日本人集団解析 (JSMO2017 Abstract PS-3)
記事:可知 健太 & 川又 総江
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