実臨床において、局所進行のステージ3非小細胞肺がんの標準治療は化学療法と同時放射線療法となるが、決して満足できる有効性が少なくとも10年間は示されていない。
そういった背景の中、免疫チェックポイント阻害薬PD-L1抗体デュルバルマブ(海外商品名Imfinzi)は、2017年7月、米国食品医薬品局(FDA)により非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に画期的治療薬に指定された。同指定の詳細な条件は、プラチナ製剤を用いた根治的化学放射線併用療法の後に進行しなかった切除不能の局所進行非小細胞肺がん(ステージ3)である。こうした根治療法の効果があったと判定された患者に対する既存の待機療法に代わる画期的なアプローチとして期待され、承認に向けた審査が加速される。
画期的治療薬指定の根拠となったデータは、米国や日本を含むアジア、欧州、オーストラリア、南アフリカなど26カ国、235施設で実施されているステージ3非小細胞肺がん患者に対する地固め療法としてのデュルバルマブを使用する第3相無作為化二重盲検試験(PACIFIC、NCT02125461)となる。
そのPACIFIC試験の中間解析結果が2017年9月8日から12日までスペイン・マドリードで開催されている欧州臨床腫瘍学会(ESMO)にて、スペイン・マドリードのHosipital Universitario 12 de OctubreのLuis Paz-Ares氏により発表されるとともに9月8日のNew England Journal of Medicineに掲載された。
目次
根治的化学放射線療法後、2週間隔で静注する最長1年のデュルバルマブ地固め療法
PACIFICの登録患者は、プラチナ製剤を用いた根治的化学放射線併用療法後の42日以内に進行が認められなかったステージ3で切除不能の局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者713例。デュルバルマブ10mg/kg群、またはプラセボ群に2:1に割り付け、2週ごとに最長12カ月にわたり静注した。主要評価項目は、無増悪生存(PFS)期間、および全生存期間(OS)の複合エンドポイントである。
その結果、2014年5月から2016年4月までに投与され、2017年2月13日のデータカットオフ時点での追跡期間中央値は14.5カ月であった。
デュルバルマブ使用で、増悪・死亡・遠隔転移のリスクはおよそ半減
主要評価項目解析対象のデュルバルマブ群476例、プラセボ群237例において、無増悪生存(PFS)期間中央値は、デュルバルマブ群(16.8カ月)がプラセボ群(5.6カ月)と比べ有意に延長し(p<0.001)、増悪・死亡リスクは48%低下した(ハザード比(HR)=0.52)。12カ月、18カ月の無増悪生存(PFS)率も、デュルバルマブ群(各55.9%、44.2%)はいずれもプラセボ群(各35.3%、27.0%)より高かった。
デュルバルマブはプラセボと比べ、いずれの層別因子とも無関係に増悪・死亡リスクを低下させた。デュルバルマブの標的分子であるプログラム細胞死受容体1リガンド(PD-L1)の発現レベル25%以上の集団ではリスク低下率が59%(HR=0.41)、25%未満の集団では41%(HR=0.59)、発現レベル不明の集団でも41%(HR=0.59)であった。
本中間解析のカットオフ時点で、全生存期間(OS)の算出には至っていない。
奏効率の解析対象はデュルバルマブ群443例、プラセボ群213例で、デュルバルマブ群(28.4%[126/443例])はプラセボ群(16.0%[34/213例])より有意に高かった(p<0.001)。完全奏効(CR)はデュルバルマブ群6例、プラセボ群1例で、部分奏効(PR)はそれぞれ120例、33例であった。病勢安定(SD)は両群ともに50%を超え、それぞれ233例、119例であった。
12カ月、18カ月時点で奏効が持続していた患者の割合はデュルバルマブ群(各72.8%、72.8%)がプラセボ群(各56.1%、46.8%)を大きく上回った。死亡するまでの期間、または遠隔転移が認められるまでの期間の中央値は、デュルバルマブ群(23.2カ月)で2年近くに達してプラセボ群(14.6カ月)より有意に延長し(p<0.001)、リスクは48%低下した(HR=0.52)。
デュルバルマブを使用しても、根治的化学放射線療法後に予測される肺炎の増悪なく管理可能
安全性の解析対象はデュルバルマブ群475例、プラセボ群234例で、グレード3またはグレード4の有害事象の発現率は、デュルバルマブ群(29.9%)とプラセボ群(26.1%)の間に大差はなく、主に肺炎(各4.4%、3.8%)であった。有害事象を理由とする治療中止率はデュルバルマブ群15.4%、プラセボ群9.8%で、重篤な有害事象はそれぞれ28.6%、22.6%、有害事象に関連する死亡はそれぞれ4.4%、5.6%に認められた。
根治的化学放射線療法の後には、間質性肺炎や放射線肺臓炎が発現することが十分に予測されており、本試験でも発現した。しかし大半は軽度で、グレード3またはグレード4の発現率(デュルバルマブ群3.4%、プラセボ群2.6%)は、同様の患者を対象とする化学放射線療法の試験データと比べ低かった。
グレード3またはグレード4の免疫関連有害事象は、デュルバルマブ群3.4%、プラセボ群2.6%に認められ、グルココルチコイドの投与や内分泌療法、他の免疫抑制薬などで処置された。
その他、デュルバルマブ群で15.4%、プラセボ群で9.8%の患者が有害事象が理由で治療薬が継続中止となった。
デュルバルマブの有効性を十分に享受できる要件を検索・解析中
非小細胞肺がん(NSCLC)の約3分の1はステージ3(3Aまたは3B)で、他臓器への転移があるステージ4とは異なり、局所進行にとどまっている状態である。ステージ3の治療は、一般的に、プラチナ製剤による化学療法と放射線照射を組み合わせた化学放射線併用療法であるが、無増悪生存(PFS)期間はおよそ8カ月、5年生存率はわずか15%であることから、十分な有益性が得られないという不満が高まっている。
デュルバルマブは腫瘍細胞のPD-L1に結合するヒトモノクローナル抗体で、PD-L1と免疫細胞に発現するPD-1、およびCD80との相互作用を阻害することにより抗腫瘍免疫を活性化・回復させる免疫チェックポイント阻害薬である。化学療法や放射線療法を受けた後の腫瘍細胞では、PD-L1の発現が亢進することが前臨床試験で明らかになっていることから、化学放射線併用療法の後にデュルバルマブが効力を発揮するとの仮説を立てて本試験が実施されている。
本中間解析対象では、PD-L1発現レベルが25%以上の患者割合(デュルバルマブ群24.2%、プラセボ群18.6%)が同25%未満の患者割合(各39.3%、44.3%)より低く多少アンバランスであるが、現時点では、デュルバルマブの効果はPD-L1発現レベルによらないと結論された。
また、デュルバルマブの効果は前治療の種類によらず、増悪・死亡リスクをプラセボ群より低下させた。前治療でシスプラチンを投与された患者集団(デュルバルマブ群266例、プラセボ群129例)では、デュルバルマブ群はプラセボ群よりリスクが49%低下し(HR=0.51)、カルボプラチンを投与された患者集団(各199例、102例)でのリスク低下率は39%(HR=0.61)であった。最後の放射線照射からの日数による解析ではリスク低下率の差が開き、14日未満の集団(各120例、62例)は14日以上の集団(各356例、175例)と比べ、プラセボ群に対するデュルバルマブ群のリスク低下率が大きかった(各61%、37%)。
以上のように、本試験で設定された主要評価項目、副次評価項目はどれもデュルバルマブ群で良好な結果が得られ、安全性においても特に問題となるような副作用は発現していない。しかし、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)のデータは本発表の解析時点では未成熟であった。
デュルバルマブは局所進行切除不能非小細胞肺がん患者に対する全身療法として何十年ぶりに臨床的意義のある無増悪生存期間(PFS)の優越性を証明しただけに、本試験における全生存期間(OS)の追跡調査の結果を期待して待ちたい。
記事:川又 総江、山田 創、前原 克章、可知 健太
リサーチのお願い
この記事に利益相反はありません。