若年でがんと診断され治療を受けたがんサバイバーについて、就労への影響を調査分析した結果が、2017年9月8日から12日にスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された(Abstract 1110PD_PR)。
1985年から2005年のノルウェーで、19歳から39歳の間に悪性黒色腫、大腸がん、ステージI/II/III乳がん、非ホジキンリンパ腫、白血病といったがんの診断・治療を受け、2015年9月1日時点で生存していたがんサバイバー1198人を対象とする長期追跡調査(NOR-CAYACS STUDY)によると、治療後の就労に制限や困難を感じた要因は、がんのタイプや治療の強度負担ではなく、心理社会的な特徴や状況、あるいは治療による身体的負担であることが明らかになった。
11段階スコア化の自己評価で半数超が影響あり
本試験では晩期副作用に関するアンケート調査のメールが送付され、若年性がんサバイバーはそのアンケート結果に基いて0から10の労働適応能力指標(Work Ability Index)11段階で分類された。なお、労働適応能力指標とはその数値が低ければ低いほど労働適応能力がないことを意味し、労働適応能力指標0とはその人が働ける状態ではないことを意味している。
診断時の年齢中央値は34歳で、調査時の平均年齢は50歳、診断時からの経過時間(中央値)は13年で、調査対象がんサバイバーの60%はフルタイムの就労形態にあった。調査時の就労状態について自己評価したスコア(スコア0[就労能力なし]からスコア10[就労最適状態])に基づくと、がん治療により就労に影響があったのは54%であった。
そのうち、遅発性の治療の影響やがん関連事象を要因とするのは16%、社会人口学的要因が5%、自己の健康判断と身体的症状が27%、精神的苦痛が5%、ライフスタイルが1%であった。
がんの診断と治療自体は就労状態に有意な影響をおよぼさず、就労を困難にする因子は認識の問題、神経障害、リンパ浮腫、放射線治療による皮膚・結合組織・筋肉などの後遺症のほか、女性であることも因子に入った。教育レベルが低い、健康に対する自己評価が低い、高血圧症など心血管疾患を抱えていることも影響していた。さらに、不安感や疲労感、再発の恐怖感が強い場合も就労状態に有意な影響をおよぼすことが分かった。
言い換えれば、若年性がんサバイバーの労働適応能力指標の低さは低学歴、女性、リンパ浮腫、疲労、抑うつ、生活の質の低さ、健康に対する自己評価の低さなどの因子と関係しているということである。
また、悪性黒色腫に比べて非ホジキンリンパ腫の若年性がんサバイバーは労働適応能力指標が低くなるリスクが高く、治療強度は労働適応能力指標と関係しないことが判った。
治療を受けて時間が経過してから表出する就労への影響は、若年サバイバーにとってのキャリアアップや婚姻など生活設計に直結する。本調査結果を発表したノルウェー・オスロ大学病院のCecilie Kiserud氏は”心理的、身体的に発症するがん治療の晩期副作用が労働適応能力指標と関係することが我々の研究で明らかになった。一方で、非ホジキンリンパ腫を除いたがん種と治療強度は労働適応能力指標に関係しないことも明らかされた。がん治療後に生存した若年性がんサバイバーが晩期副作用により働くことが困難になる可能性があるという事実を認識することは非常に重要である。”と述べた。
また、フランス・ヴィルジュイフのがん治療センターGilles Vassal氏は”約80%の若年性がん患者は治癒し得るが、その治療強度の強さから約3分の2のがんサバイバーが心理的、身体的な晩期副作用で頭を悩ます。本試験では癌そのものよりも、治療の晩期副作用が労働適応能力を低減させることが証明された。本試験の結果より、若年性がんサバイバーに対して潜在的な毒性についても十分に理解させ、晩期副作用の重篤度を最小限に抑えるための継続的なモニタリングが必要であることが判った。また、治癒の可能性を阻害することなく毒性のリスクを低下させる治療法を開発するためにも新たなる臨床試験が必要とされるであろう。”と述べた。
同時にESMOでは、影響を最小化する具体的取り組みについて議論された。
(文:川又 総江 & 山田 創)
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