2018年2月14日、医学誌『Journal of Clinical Oncology(JCO)』にて完全切除後のエストロゲン受容体(ER)陰性またはエストロゲン受容体(ER)陽性孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)患者に対する術後化学療法の有効性を検証した第III相のCALOR試験(NCT00074152)の結果がStanford University School of Medicine・Irene L. Wapnir氏らにより公表された。
CALOR試験とは、完全切除後のエストロゲン受容体(ER)陰性またはエストロゲン受容体(ER)陽性孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)患者(N=162人)に対して治験医師の選択する術後化学療法(2剤以上の化学療法レジメン、治療期間3~6カ月間を推奨)を実施する群(N=エストロゲン受容体(ER)陰性29人、陽性56人)、実施しない群(N=エストロゲン受容体(ER)陰性29人、陽性48人)に無作為に振り分け、主要評価項目として無病生存率(DFS)、副次評価項目として全生存率(OS)、乳がん無発症率(BCFI)を比較検証したオープンラベルの第III相試験である。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群55歳(40-80歳)、受けてない群56歳(31-82歳)、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群56歳(37-70歳)、受けてない群56歳(33-80歳)。孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)診断時の閉経ステータスはエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群で閉経前24%(N=7人)、閉経後76%(N=22人)、受けてない群で閉経前21%(N=6人)、閉経後79%(N=23人)、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群で閉経前23%(N=13人)、閉経後77%(N=43人)、受けてない群で閉経前17%(N=8人)、閉経後83%(N=40人)。
化学療法の前治療歴のある患者はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群59%(N=17人)受けてない群72%(N=21人)、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群57%(N=32人)受けてない群65%(N=31人)。孤立性局所再発もしくは領域再発(ILRR)の部位はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群で乳69%(N=20人)、乳房切除瘢痕または胸壁21%(N=6人)、リンパ節10%(N=3人)、受けてない群で乳76%(N=22人)、乳房切除瘢痕または胸壁17%(N=5人)、リンパ節7%(N=2人)、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群で乳48%(N=27人)、乳房切除瘢痕または胸壁39%(N=22人)、リンパ節13%(N=7人)、受けてない群で乳42%(N=20人)、乳房切除瘢痕または胸壁42%(N=20人)、リンパ節16%(N=8人)。原発腫瘍部位のエストロゲン受容体ステータスはエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群で陰性72%(N=21人)、陽性24%(N=7人)、不明3%(N=1人)、受けてない群で陰性69%(N=20人)、陽性28%(N=8人)、不明3%(N=1人)、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群で陰性11%(N=6人)、陽性75%(N=42人)、不明14%(N=8人)、受けてない群で陰性0%(N=0人)、陽性81%(N=39人)、不明19%(N=9人)。
上記背景を有する患者に対して術後化学療法の投与有無によるフォローアップ期間中央値9年における結果は下記の通りである。主要評価項目である10年無病生存率(DFS)はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群は70%、受けてない群は34%(ハザードリスク比:0.29,95%信頼区間:0.13-0.67)を示した。反対に、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群は50%、受けてない群は59%(ハザードリスク比:1.07,95%信頼区間:0.57-2.00)を示した。
10年無病生存率(DFS)と同様に、副次評価項目である10年乳がん無発症率(BCFI)はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群は70%、受けてない群は34%(ハザードリスク比:0.29,95%信頼区間:0.13-0.67)を示した。反対に、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群は58%、受けてない群は62%(ハザードリスク比:0.94,95%信頼区間:0.47-1.85)を示した。
一方、10年全生存率(OS)はエストロゲン受容体(ER)陰性で術後化学療法を受けた群は73%、受けてない群は53%(ハザードリスク比:0.48,95%信頼区間:0.19-1.20)を示した。反対に、エストロゲン受容体(ER)陽性で術後化学療法を受けた群は76%、受けてない群は66%(ハザードリスク比:0.70,95%信頼区間:0.32-1.55)を示した。
そして、3つの評価項目のエストロゲン受容体(ER)ステータスの相互作用はそれぞれ10年無病生存率(DFS)はP=0.013、10年乳がん無発症率(BCFI)はP=0.034、10年全生存率(OS)のP=0.53を示した。また、患者背景別の10年無病生存率(DFS)の相互作用としては、化学療法の前治療歴の有無ではP=0.56、原発巣手術からの期間別ではP=0.0036、孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)の部位別では乳を参照値として乳房切除瘢痕または胸壁P=0.43、リンパ節P=0.98、孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)のエストロゲン受容体ステータスではP=0.024、を示した。なお、化学療法を受けている患者におけるエストロゲン受容体ステータスの10年無病生存率(DFS)に与える相互作用は、原発腫瘍部位のエストロゲン受容体ステータスよりも孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)のエストロゲン受容体ステータスの方が統計学的有意な影響を与えていた。
以上のCALOR試験の結果よりIrene L. Wapnir氏らは以下のような結論を述べている。”完全切除後の孤立性局所再発もしくは領域再発乳がん(ILRR)患者さんに対する術後化学療法はエストロゲン受容体(ER)陰性患者さんに対して有効ですが、エストロゲン受容体(ER)陽性患者さんに対しては術後化学療法の治療を積極的に推奨できない結果になりました。”
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