・甲状腺乳頭がん患者の予後にBRAF遺伝子が与える影響に性差があるかを検証した試験
・BRAF遺伝子陰性の男女、BRAF遺伝子陽性の男女で死亡、再発のリスクを検証
・BRAF遺伝子陽性の男性は死亡、再発のリスクが高い
2018年8月2日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて甲状腺乳頭がん(PTC)患者においてBRAF遺伝子ステータスの予後に与える影響は性別により異なるかどうかを検証した後ろ向き試験の結果がJohns Hopkins Thyroid Tumor Center・Mingzhao Xing氏らにより公表された。
本試験は、6カ国11施設において甲状腺乳頭がん(PTC)と診断された2,638人(男性623人,女性2,015人)を対象に性別の違いが死亡、再発リスクなどに影響を与えるかどうかを後ろ向きに検証した国際多施設共同試験である。
本試験に登録された女性、男性それぞれの患者背景は下記の通りである。診断時の年齢中央値は女性45歳(34-57歳)に対して男性49歳(38-60歳)。腫瘍径中央値は女性1.5cm(1.0-2.5cm)に対して1.8cm(1.0-3.2cm)。
甲状腺内多発率は女性36.9%(N=739人)に対して男性42.1%(N=261人)。甲状腺外拡張率は女性23.9%(N=480人)に対して男性30.2%(N=188人)。リンパ節転移率は女性31.7%(N=632人)に対して男性42.8%(N=264人)。
臨床病期はステージIIII/IVが女性20.5%(N=410人)に対して女性33.0%(N=204人)。遠隔転移率は女性4.0%(N=79人)に対して男性6.3%(N=39人)。BRAF遺伝子陽性率は女性41.2%(N=822人)に対して男性43.8%(N=272人)。以上のように両群間におけるBRAF遺伝子陽性率の偏りはないため、本試験では女性、男性群をBRAF遺伝子陽性、陰性別に分けて検証している。
以上の背景を有する患者に対する再発リスク、死亡リスクの結果は下記の通りである。なお、BRAF遺伝子ステータス以外の患者背景である診断時年齢、腫瘍径、甲状腺内多発率、甲状腺外拡張率、リンパ節転移率、放射性ヨウ素治療歴などの因子を調整した結果である。
女性に対する男性の甲状腺乳頭がん(PTC)再発リスクは全患者群でHR1.31(95%信頼区間:1.06-1.61,P=0.12)、BRAF遺伝子変異陰性群でHR1.14(95%信頼区間:0.82-1.57,P=0.440)、BRAF遺伝子変異陽性群でHR1.50(95%信頼区間:1.14-1.98,P=0.004)。以上のようにBRAF遺伝子変異陽性群における再発リスクは女性よりも男性で統計学有意に高率であるが、BRAF遺伝子変異陰性群における再発リスクは両群間で統計学有意な差は確認されなかった。
また、女性に対する男性の甲状腺乳頭がん(PTC)死亡リスクは全患者群でHR1.42(95%信頼区間:0.81-2.47,P=0.219)、BRAF遺伝子変異陰性群でHR0.70(95%信頼区間:0.23-2.09,P=0.520)、BRAF遺伝子変異陽性群でHR2.74(95%信頼区間:1.38-5.43,P=0.004)。以上のようにBRAF遺伝子変異陽性群における死亡リスクは女性よりも男性で統計学有意に高率であるが、BRAF遺伝子変異陰性群における再発リスクは両群間で統計学有意な差は確認されなかった。
以上の後ろ向き試験の結果よりMingzhao Xing氏らは以下のように結論を述べている。”BRAF遺伝子変異陽性の甲状腺乳頭がん(PTC)患者は女性よりも男性で予後が悪く、性別はBRAF遺伝子変異陽性の甲状腺乳頭がん(PTC)患者における独立したリスク因子になり得ることが本試験より証明されました。”
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