日本希少がん患者会ネットワーク(RCJ)が、4月27日、東京・築地の国立がん研究センターで、「第1回希少がん患者サミット」を開催した。
希少がん患者・家族など約250人が参加したこのサミットで注目を集めたのが、「がんゲノム医療」と「マスターキー(MASTER KEY)プロジェクト」をテーマにした講演である。
今回は、今年6月から保険適用になった「がん多遺伝子パネル検査」の「オンコガイド™NCCオンコパネルシステム」と「ファウンデーションワン(FoundationOne®) CDx がんゲノムプロファイル」などがんゲノム医療に関連した同サミットの講演の内容をレポートする。
目次
がんゲノム医療の利点は、多くの遺伝子異常を一度に調べられること
希少がん患者サミットでは、北里大学医学部新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門臨床腫瘍学教授の佐々木治一郎氏が、「がんゲノム医療について~現場の立場から~」と題して講演した。
「医薬品の効果や副作用を投与前に調べる検査をコンパニオン診断と言います。非小細胞肺がんの治療では、個々の患者さんのがんのタイプに応じて分子標的薬を選択するゲノム医療が保険診療で行われていますが、これまでは薬とコンパニオン診断薬が紐づいていて、ドライバー遺伝子の有無も一つ一つ調べる必要があった。がん多遺伝子パネル検査のいいところは、複数の遺伝子変異を一度に調べられるところです」(佐々木氏)
(北里大学医学部新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門臨床腫瘍学教授の佐々木治一郎氏)
免疫チェックポイント阻害薬もゲノム医療と関連しており、遺伝子変異の多いがんのほうが効果の出る可能性が高いと考えられている。免疫チェックポイント阻害薬の一つ、ペンブロリズマブでは、DNA修復能が低下しているかをみるMSI(マイクロサテライト不安定性)検査が効果予測をするバイオマーカーになっている。
MSI検査で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)になるのは、大腸がん、子宮体がん、十二指腸がん、胆管がん、神経内分泌がん、小腸がんなどの一部で、希少がんも含まれる。
化学療法後に再発したMSI-Highがんには、がん種に関係なくペンブロリズマブが有効で、なかには、腫瘍が消えたケースもある。
2種類のがん多遺伝子パネル検査が保険診療に
そして、6月から保険診療で実施されるのが、がんの組織を用いて、100種類以上の遺伝子異常を一度に調べる「がん多遺伝子パネル検査」の「オンコガイド™NCCオンコパネルシステム」と「ファウンデーションワン® CDx がんゲノムプロファイル」である。
「ゲノム医療を遺伝子治療のように思っている人もいるかもしれませんが、まずは検査として、がん多遺伝子パネル検査を利用して治療方針を立てるのががんゲノム医療の本質です」と佐々木氏は話し、実際に保険診療で「がん多遺伝子パネル検査」を受ける場合の流れを説明した。
(佐々木治一郎氏資料より)
がんゲノム医療連携病院(連携病院)で、がん多遺伝子パネル検査を受ける場合には、説明を受けて同意書にサインをし、患者さんのがんの組織を採取した検体が検査会社に送られる。
がんゲノム解析の結果は、がんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルが連携病院とも協力して報告書を作成し、それをもとに治療が選択される。
遺伝子異常が見つかっても治療につながるのは10%程度
佐々木氏は続けて、「オンコガイド™NCCオンコパネルシステムとファウンデーションワン® CDxがんゲノムプロファイルの保険診療の対象は標準治療が終わった患者さんが対象になる見通しです。先進医療や自費診療のがん多遺伝子パネル検査もありますが、1回45万~100万円かかります。どのパネル検査でも検体不良で情報が得られないこともありますし、現時点では検査を受けた10%程度しか治療につながっておらず、遺伝子異常が見つかっても、最適な治療が受けられない場合もあります。一方、遺伝子異常なしでも最適な治療・ケアが受けられますのでがっかりしないでください。また、がん細胞を調べていても、家族性腫瘍に関連する遺伝子異常を10%程度検出する可能性があります」と指摘した。
例えば、がんゲノム医療連携病院の北里大学病院では、もともと同院にかかっていた患者さんが保険診療のがん多遺伝子パネル検査を受けたい場合には主治医に相談する。
先進医療か自費のがん多遺伝子パネル検査を受けたい場合、あるいは、別の病院にかかっている患者ががん多遺伝子パネル検査(保険診療のものも含む)を受けたい場合には、有料(30分で2万円(税別))の「がんゲノム相談外来」を受診して、検査を受けるかを決めることになる予定とのこと。
がん多遺伝子パネル検査の結果、遺伝子異常が見つかった場合に治療を受ける選択肢には、治験▽先進医療▽患者申出療法▽自由診療(自費)の4つが想定される。
(佐々木治一郎氏資料より)
さらに、佐々木氏は、「治療が自費になった場合には、MRIやCTなどの検査も全部自費になるのが難点です。また、がん遺伝子パネル検査やMSI検査で家族性腫瘍に関連する遺伝子変異が見つかったときの遺伝カウンセリング、まだ病気になっていない家族のフォローアップも自費になります。家族性腫瘍に関する情報が外に漏れる可能性もあり、米国遺伝子情報差別禁止法(GINA)や英国保険業協会(ABI)規定に準じた法規制の必要性も議論する必要があります」と課題を提示した。
希少がん患者のゲノム医療の受け皿を増やす「マスターキープロジェクト」
続いて、国立がん研究センター中央病院前副院長(現・日本医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)の藤原康弘氏が、希少がんの患者さんががん多遺伝子パネル検査を受け、遺伝子異常がわかったときの治療の選択肢となる「マスターキープロジェクト」と「患者申出療法制度」について解説した。
「がんゲノム診療が導入されても、治療にたどりつく患者さんは約10%、多くても20%程度と考えられます。特に、希少がんはもともと保険診療で使える薬が少ない。これは世界共通の問題です。このような問題を解決すべく私たちが始めたのが、産学共同で希少がんの治療開発基盤を目指すマスターキープロジェクトです」と藤原氏。
(国立がん研究センター中央病院の藤原康弘氏)
現在、国立がん研究センター中央病院、京都大学附属病院、北海道大学病院、九州大学病院の4施設が、12の製薬企業と共同で同プロジェクトを進めている。同プロジェクトの対象は、希少がん、原発不明がん、患者数の多いがんの希少組織亜型、血液がんの患者さんである。
マスターキープロジェクトの柱の一つは、網羅的データベースに治療内容などを登録するレジストリ研究。19年3月末時点で572例の希少がんの患者さんのデータが登録された。
同プロジェクトのもう一つの柱は、バイオマーカー情報に基づいた臨床試験への参加である。現在、8つの臨床試験が実施され、さらに3件の臨床試験が準備中。プロジェクトの登録患者を対象に、リキッドバイオプシーの探索的研究も実施中である。
「患者さんにとってのメリットは、希少がん診療経験が豊富な施設で正確な病理診断・適切な治療を受ける機会が増える、レジストリデータの蓄積により、希少がん疾患のそれぞれの特徴が明らかになる、新しい薬による治療の機会が増えることです」と藤原氏は語った。
治験の対象にならない患者の受け皿となる患者申出療養制度
一方、がん多遺伝子パネル検査を受けて遺伝子異常が見つかったとしても、既存の薬や治験の対象にならない患者も多く、「新たな〝がん難民″、〝がんゲノム医療難民″を生むのではないか」と懸念される。
その問題を少しでも解消し、治験の対象とならない患者さんの受け皿として、国立がん研究センター中央病院が準備を進めているのが、患者申出療養制度の活用である。患者申出療養「受け皿試験」は、同院が調整事務局となって、全国11カ所のがんゲノム医療中核拠点病院で実施される予定になっている。
「薬については、製薬企業に、治験薬と適応外だけれども他のがんの治療に使われている既承認薬の無償提供をお願いしています。患者申出療法の対象となるのは、オンコガイド™NCCオンコパネルシステムかファウンデーションワン® CDxがんゲノムプロファイルの遺伝子解析結果、あるいは、先進医療BのNCCオンコパネル、東京大学医学部附属病院のTodaiOncoPanel、大阪大学医学部附属病院のOncomine™Target Testを使った遺伝子パネル検査の結果を持っている方を想定しています」と藤原氏は話す。
もしも薬代が全額患者の自己負担になると健康保険が使えないだけに、かなり高額になると想定される。製薬企業からの無償提供が実現すれば、薬代の自己負担額なしで遺伝子変異に合った治療が受けられるわけだ。
(厚生労働省・患者申出療養評価会議(2018年11月22日)参考資料より)
次回は、希少がん患者の現状を反映したアンケートの結果と患者向けガイドラインなどをテーマにしたパネルディスカッションについてまとめる。
(取材・文/医療ライター・福島安紀)
第1回希少がん患者サミットシリーズ
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