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EGFR陽性非小細胞肺がん治療の課題
近年、進行肺がん治療は劇的に変わりつつあり、特に分子標的薬の進化のスピード感は他領域と比しても類を見ない。特に、EGFR陽性非小細胞肺がんに対しては、第1世代から第3世代の5種類の薬剤が存在し、治療に貢献している。
しかしながら1つ、検討すべき課題も存在する。第3世代製剤について、1次治療で使うには特に縛りはないが、2次治療で使用する際には、1次治療で使用したEGFR製剤に対する耐性が起き、検査を受け、T790M変異という遺伝子変異が認められた場合は使用可能だが、変異が認められなかった場合には使用することができない。
なぜこのように使用できる方か限定されるかと言うと、1次治療を受けた後にEGFR-T790M変異が陰性(T790M変異がない)非小細胞肺がん患者に第3世代製剤が有効か?有効でないか?がはっきり証明されていない。そのため1次治療にEGFR製剤を使用している場合には厚生労働省より承認された適応が、「T790M変異陽性」に限定されているからである。
こうした中、12月6日から8日に開催された第60回日本肺癌学会学術集会のペイシェント・アドボケート・プログラムにて、西日本がん研究機構理事長の中川和彦先生、肺がん患者会ワンステップ理事長長谷川一男氏より新たなチャレンジが発表された。
それは「T790M変異陰性」の場合でも第3世代EGFR製剤が有効かを検証する第2相医師主導治験である。
肺がん患者会による、肺がん患者のための治験
日本における、治験発案者は製薬企業や医師など研究者であり、その場合の、資金提供者は製薬企業かAMEDや科研費といった助成金と相場が決まっている。しかしながら、この治験は、肺がん患者会ワンステップがけん引する、言わば「肺がん患者会による、肺がん患者のための治験」である。
既に、PMDAと相談が始まっており、次のステップは相談料が478万円となる治験デザインについてディスカッションする「対面助言(医薬品後期第II相試験開始前相談)」に臨む予定であるが、問題なのが478万もの費用を誰が支払うか?ということだ。
長谷川氏は、そのコストを「よこはま夢ファンド(ふるさと納税)」にて補うことにしたと発表した。
よこはま夢ファンドは「集めた寄附金を積み立てて、主に横浜市内で活動するあらかじめ登録されたNPO法人の公益活動への助成を行う基金」となり、寄付した額は住民税が控除される形となるため、例えば10万円住民税を支払っている方が10万円寄付を行うと、2000円の事務手数料を除いた9万8千円を寄付できる仕組みとなる。
もし、478万円の寄付金が集まり対面助言で治験デザインが確定した場合には、治験費用は製薬企業が支払う可能性も大いにあるようだ。
詳しくはコチラ(ワンステップホームページ)
最近、(あえて言うが)戦略なき臨床試験に3000万の寄付金が民間ファンドを通して集まったケースもあったが、本当に寄附するべきは大真面目に治験を行い、適応を目指すこのような活動だと考える。
冒頭申し上げたように、EGFR陽性非小細胞肺がんに対しては、第1世代から第3世代の5種類が存在するが、現状では、変異の有無によって、全ての薬剤を使えないという状況が発生してしまう。
がん患者にとって、その1剤を使うことができるかどうか、というのはとてつもなく大きな問題ではないだろうか?今回の試験によって、全ての方が全ての薬剤を使えるという未来に一歩近づくかもしれない。
皆さんのご協力を、宜しくお願いします。
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