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乳がんタモキシフェン療法の遺伝子型に基づく個別化治療の必要性に決着-世界初の前向き臨床試験の結果を発表-

  • [公開日]2020.03.11
  • [最終更新日]2020.03.11
この記事の3つのポイント
・乳がんタモキシフェン療法における個別化治療の有効性を研究する世界初の前向き無作為化比較試験
・低代謝活性の遺伝子型を有する患者において、タモキシフェン増量による治療効果の向上は認めず
・15年間の国際論争に決着をつけるハイレベルなエビデンスを獲得、遺伝子型に基づく用量個別化は不要と結論

2020年3月10日、国立研究開発法人国立がん研究センターと慶應義塾大学医学部は乳がんタモキシフェン療法における遺伝子型に基づく個別化治療の有効性について世界初の前向き(注1無作為化比較試験を実施した結果、タモキシフェンを体内で活性化する酵素CYP2D6の低活性遺伝子型を有する患者に対して、タモキシフェン増量による治療効果の向上は認めず、遺伝子型に基づく用量個別化は不要との結論に達したことを発表した。

この研究は、中央病院の藤原康弘 副院長(当時)[現 医薬品医療機器総合機構 理事長]、田村研二 乳腺・腫瘍内科長、慶應義塾大学医学部の谷川原祐介 臨床薬剤学教室教授、今村知世 同講師(当時)[現 昭和大学先端がん治療研究所准教授]、国立研究開発法人理化学研究所の莚田泰誠 ファーマコゲノミクス研究チームリーダーらのグループが、全国54施設との共同で実施したもの。本研究成果は、米国臨床腫瘍学会機関誌「Journal of Clinical Oncology」に2月20日付で発表され、さらに同誌「Editorials」でも前向き臨床試験によるよりハイレベルのエビデンスとして取り上げられている。

目次

研究背景

ホルモン受容体陽性乳がんは、がん細胞の増殖に女性ホルモンの1つである「エストロゲン」を必要とすることが知られている。このため、この女性ホルモンの分泌を抑えたり、働きを妨げる治療薬(ホルモン療法薬)が、この乳がんの治療薬として用いられている。

タモキシフェンはホルモン療法薬の1種で、ホルモン受容体乳がんの手術後の再発を抑える治療や転移のある患者の病勢を抑える治療として用いられている。

しかし、患者がこのタモキシフェンを内服しても、タモキシフェンはそのままでは乳がんに対してほとんど働かず、体内の肝臓にある酵素「CYP2D6」により、タモキシフェンがより有効な形(代謝産物であるエンドキシフェンと4-OH-タモキシフェン)に変換されることでがんに対する効果を発揮する。

このCYP2D6の活性には民族差や個人差があり、特に日本人においては約7割で遺伝的に活性が低く、欧米白人の5割に比べて頻度が高いことが知られている。

タモキシフェン療法とCYP2D6の活性との関連は、2005年に米国の研究チームが後ろ向き研究(注2によってCYP2D6活性が遺伝的に低い人はタモキシフェンによる治療効果が劣るという仮説を発表して以来、これまで70報以上の研究論文が発表されたものの、肯定する結果と否定する結果の相反する報告が併存し、タモキシフェンの内服量を多くする方が良いのではないかという仮説も提唱されるなど、乳がん領域における長年の課題となっていた。

低代謝活性という遺伝素因を有する患者にとってタモキシフェン療法の標準的な治療(内服量)が不利益であるならば、特に日本人において大きな問題となる。

このような背景から、研究チームはCYP2D6低代謝活性の遺伝子を有する乳がん患者を対象として、増量治療の治療効果の方が高いのではないかという仮説に基づき、従来の標準的なタモキシフェン治療と2倍量の増量治療とを前向きに比較することで、個別化治療の必要性について研究を実施した。

研究方法

ホルモン受容体陽性転移・再発乳がん(一次治療)患者を対象とし、CYP2D6遺伝子検査に基づいて、低代謝活性の遺伝素因を有する患者を無作為に2群に分け、一方は標準用量20mgタモキシフェンで治療し、他方は40mgに増量して治療を行った。

2012年12月から2016年7月までの間に186名の患者が登録され、主要評価項目は試験治療開始後6ケ月時点での増悪の有無とし、副次的評価項目として活性代謝物の血中濃度と有効性の関連性や無増悪生存期間を評価した。

研究結果

登録された186名において、代謝活性が低い遺伝子型を保有していたのは136例。そのうち70例を40mg投与群、66例を20mg投与群に割り付けた。また、代謝活性が高い遺伝子型を保有していた48例は、標準用量20mgにて治療を行うものの主要評価項目では比較対象外とされた。残り2例は割り付け前の有害事象発現のため試験を継続できなかった。

その結果、試験治療開始後6ケ月時点での無増悪の割合はタモキシフェン20mg群と40mg群で差はなく(66.7%と67.6%)、増量による治療効果向上は認められなかった。また、血清中の活性代謝物エンドキシフェン濃度は、20mg群に比して40mg群で有意に高かったものの、治療効果とは関連しなかった。さらに、6ケ月時点での無増悪患者と増悪患者の血清中の活性代謝物エンドキシフェン濃度には違いは見られなかった。

結論

以上の結果から、CYP2D6低活性型の遺伝子を有する乳がん患者において、タモキシフェンの用量を増やしても治療効果の向上には至らなかったことから、CYP2D6遺伝子多型だけでタモキシフェン治療効果の個人差を説明することはできず、よってCYP2D6遺伝子型に基づく用量個別化は不要との結論に到達した。

(注1 前向き研究
患者協力のもと、新たにデータやサンプルを集め、実際に検証する研究。

(注2 後ろ向き研究
診療情報や臨床検体など、カルテ記載事項、検査結果のデータ、組織サンプルを用いてさまざまな事柄を調査する。

臨床研究の出発点として、診療上の問題や医学上の問題に対する答えの糸口を見つける役割を果たす。

参照元:
国立がん研究センタープレスリリース

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