国立がん研究センター中央病院は、同院が支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の研究によって、切除不能で転移のあるステージIV大腸がんに対する原発巣切除は生存期間を延長されず、有害事象が増えることが確認されたと発表。2月15日に記者会見を開催し、中央病院長の島田和明氏らが参加した。
大腸がんは日本で最も罹患数が多く、その数は年間15万人以上にのぼる。うち約17%は肝臓や肺への転移、腹膜播種が見られるステージIVである。
現在、ステージIVの大腸がんに対する標準治療は、可能であれば原発巣と転移巣をともに切除することが推奨されているが、実際に切除を実施する症例は約20%にすぎない。また、転移巣が切除不能の場合は化学療法を行うが、原発巣に起因する大出血や貧血などの症状が認められた場合、原発巣は切除される。しかし、原発巣に起因する症状がない場合、原発巣の切除を行うかどうかは、方針が二分していたという。なお、米国のガイドラインでは、原発巣は切除せず化学療法を行うことが標準治療とされている。
そこで、JCOG大腸がんグループは第3相JCOG1007試験を実施。ランダム化比較試験である同試験では、原発巣非切除で化学療法を行う群(N=82人)と原発巣切除後に化学療法を行う群(N=78人)に振り分け、生存期間や安全性の比較を行った。
その結果、全生存期間は化学療法単独群の26.7ヶ月(21.9―32.5ヶ月)に対し、原発巣切除+化学療法群は25.9ヶ月(19.9―31.5ヶ月)と、有意な差は認めれなかった(HR:1.10、95%信頼区間:0.76―1.59、p=0.69)。また、原発巣切除+化学療法群は化学療法単独群より有害事象の頻度が高く、重度であり、原発巣切除の合併症によって死亡した患者も3人確認されている。
化学療法により治癒切除が可能となった患者は、化学療法単独群で5%(N=4/82人)、原発巣切除+化学療法群で3%(N=2/78人)と、差は見られなかった。一方、化学療法単独群の87%は最後まで手術が不要だった。
以上の結果より、原発巣は切除せず化学療法を行う治療が標準治療となり得る可能性が示唆された。これにより手術による合併症を避け、化学療法の開始を早めることが期待される。
JCOG1007試験の研究代表者で同院大腸外科科長である金光幸秀氏は「ステージIVで原発巣による症状がない患者さんに対し、薬物療法が有効であることが示され、すぐに治療に取り組めるメリットは大きいと考えます。また、手術による患者さんへの負荷を減らすことができる点においてもメリットがあると思います」と述べている。
なお、大腸がんを対象とした同試験と同じく、ステージIVの胃がん、乳がん、肺がんを対象に原発巣切除の有効性を検証する試験が行われている。
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