2019年12月20日、メルクバイオファーマ株式会社(以下、メルクバイオファーマ)は、「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」の治療薬として、ファイザー株式会社(以下、ファイザー)と共同開発中の抗PD-L1抗体アベルマブ(遺伝子組換え)(商品名:バベンチオ)(以下、バベンチオ)の製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。
今回の承認は、免疫チェックポイント阻害剤バベンチオとチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)アキシチニブ(商品名:インライタ)(以下、インライタ)の併用療法による、未治療の進行腎細胞がんを対象とした第3相試験「JAVELIN Renal 101」の結果に基づくもの。同試験において、バベンチオとインライタ併用投与群は、スニチニブリンゴ酸塩(以下、スーテント)商品名:スーテント)単剤投与群と比較して、PD-L1陽性患者集団、また、PD-L1の発現の有無を問わない全患者集団のどちらにおいても、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善が示された。
腎細胞がんでは、患者の約20~30%が初診断時に転移期の腎細胞がんと診断されている1。遠隔転移した腎細胞がんの5年生存率は約12%2。国内において同疾患の治療薬として抗PD-L1抗体が承認されたのは、バベンチオが初めてであり、腎細胞がんの標準薬として広く普及しているインライタとの併用療法により、腎細胞がん治療アルゴリズムは進展し、新たな治療方法が期待される。
目次
参考資料
腎細胞がんについて
腎細胞がんは腎がんのうち最も多く見られる種類のがんで、成人のがん全体の約2~3%を占めている4,5。
腎細胞がんの中で最も多いのは淡明細胞型で、全症例の約70%を占めている4。
2012年には全世界で約338,000例が新規に腎細胞がんと診断され、2017年の米国単独での新規診断症例は推計で63,340例にのぼる
発症率は世界的に大きく異なり、一般に北米、および中欧・東欧で高くなっている6。
バベンチオについて
バベンチオは、PD-L1と呼ばれるタンパク質を特異的に阻害するヒト型抗体。
動物モデルでは、バベンチオにより自然および獲得性の免疫作用の両者に活性化が認められている。
また、バベンチオがPD-L1に結合することにより、抑制されていたT細胞を介した免疫反応による抗腫瘍作用の活性化が認められている7-9。
なお、バベンチオは、薬理作用としてin vitroで抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を誘導することが確認されている
インライタについて
インライタは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)-1、-2、-3を選択的に阻害する経口TKI。VEGFR-1、-2、-3は、腫瘍増殖、血管新生、がんの浸潤(腫瘍伸展)および転移に関与していると考えられている。
米国においてインライタは、一次治療(全身療法)に抵抗性を示した進行腎細胞がんの治療薬として承認されている。また、欧州連合(EU)においては、スーテントまたはサイトカインによる前治療に抵抗性を示した
成人進行腎細胞がんの治療薬として、欧州医薬品庁(EMA)の承認を取得している。
スーテントについて
スーテントは、がんの成長、増殖、転移にかかわる複数の分子標的を阻害することによって作用する経口マルチキナーゼ阻害剤。
2つの重要なスーテントの標的である血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)と血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)は、多くのタイプの固形腫瘍において発現する。
また、腫瘍の成長に必要な血管、酸素、栄養を獲得するプロセスである血管新生において重要な役割を果たすと考えられている。
スーテントはKIT、FLT3、RETなどの腫瘍の成長にとって欠かせないその他の標的も阻害する。
スーテントは、進行腎細胞がん、イマチニブ抵抗性またはイマチニブ不耐性の消化管間質腫瘍(GIST)、および切除不能局所進行または転移性高分化型膵神経内分泌腫瘍(pNET)の治療に適応が認められている。
スーテントの術後補助療法での使用は承認されていない。
JAVELIN Renal 101について
JAVELIN Renal 101は、国際多施設共同・無作為化(割付比1:1)第3相試験で、日本も参加している。
本試験では、未治療の切除不能または転移を有する腎細胞がんの患者886例(日本人67例を含む)を対象として、バベンチオとインライタの併用投与とスーテント単剤投与の有効性と安全性を比較評価した。
主要評価項目はPD-L1陽性患者集団(発現率1%以上)における無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)であり、重要な副次評価項目としてPD-L1の発現を問わない全患者集団のPFSおよびOSを評価した。
中間解析の結果、PD-L1陽性患者集団だけでなく、PD-L1の発現を問わない全患者集団においても、統計学的に有意なPFSの延長を示した。
PD-L1の発現を問わない全患者集団において、バベンチオとインライタの併用投与群とスーテント群のPFS中央値は、13.8カ月vs.8.4カ月(ハザード比:0.69;片側検定p値=0.0001)であった。
OSについては、中間解析の時点でバベンチオとインライタの併用投与群で良好な傾向がみられたが、イベントが十分に集積されておらず、現在、評価継続中3。
本試験では安全性が懸念される新たな知見は認められず、バベンチオ、インライタ、スーテントの有害事象は、いずれも従来の安全性プロファイルと一貫していた3。
JAVELIN Renal 101の試験結果は、2018年10月の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で公表され、『New England Journal of Medicine』(NEJM)にも掲載された(Motzer RJ et al N Engl J Med. 2019;380(12):1103-1115)。
なお、未治療の進行腎細胞がんを対象としたバベンチオとインライタの併用療法は、2017年12月、米国食品医薬品局(FDA)によりブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)に指定され、米国では2019年5月、欧州では2019年10月に承認されている。
* 日本においてバベンチオは、2017年9月に、本邦初かつ唯一の「根治切除不能なメルケル細胞がん」治療薬として、また、日本初の抗PD-L1抗体として厚生労働省から製造販売承認を取得し、同年11月に販売を開始している。
* 日本においてインライタとスーテントは、「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」を対象に承認されている。また、19年12月、インライタは、未治療の同患者に対しては、PD-1/PD-L1阻害剤と併用して使用する旨の添付文書改訂を行なった。
JAVELIN 臨床開発プログラムについて
メルクとファイザーが共同で実施しているアベルマブのJAVELIN臨床開発プログラムは、15以上の異なるがん種を対象に10,000名以上の患者が登録されている。
JAVELIN臨床開発プログラムには胃/胃食道接合部がんの他、頭頸部がん、メルケル細胞がん、非小細胞肺がん、腎細胞がんおよび尿路上皮がんが含まれている。
出典
1. Ljungberg B, Campbell S and Cho H. The Epidemiology of Renal Cell Carcinoma. Eur Urol. 2011;60:615-621.
2.. National Cancer Institute: SEER Stat Fact Sheets: Kidney and renal pelvis.
3.プレスリリース
4. American Cancer Society. What is kidney cancer?
5.Escudier B, Porta C, Schmidinger M et al Renal cell carcinoma: ESMO clinical practice guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Annal Oncol. 2014; 25(Suppl3):ⅲ 49-ⅲ 56.
6.World Cancer Research Fund International: Kidney cancer statistics
7.Dolan DE, Gupta S. PD-1 pathway inhibitors: changing the landscape of cancer immunotherapy. Cancer Control. 2014;21(3):231-237.
8. Dahan R, Sega E, Engelhardt J, et al. FcγRs modulate the anti-tumor activity of antibodies targeting the PD-1/PD-L1 axis. Cancer Cell. 2015;28(3):285-295.
9. Boyerinas B, Jochems C, Fantini M, et al. Antibody-dependent cellular cytotoxicity activity of a novel anti-PD-L1 antibody avelumab (MSB0010718C) on human tumor cells. Cancer Immunol Res. 2015;3(10):1148-1157.
10. Kohrt HE, Houot R, Marabelle A, et al. Combination strategies to enhance antitumor ADCC. Immunotherapy. 2012;4(5):511-527.
11. Hamilton G, Rath B. Avelumab: combining immune checkpoint inhibition and antibody-dependent cytotoxicity. Expert Opin Biol Ther. 2017;17(4):515-523.
参照元:
ファイザー株式会社プレスリリース
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