2017年6月2日から5日まで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、アビラテロン酢酸エステル(商品名ザイティガ)の第3相試験結果がプレナリーセッションで発表された。ザイティガは、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)を効能・効果として日本で2017年9月から販売されているCYP17阻害薬。
前立腺がんの増殖や進展は、テストステロンなど男性ホルモンのアンドロゲンの働きに依存している。テストステロンから精巣を保護するアンドロゲン除去療法(ADT)は、一定の効果が得られるものの、前立腺がんや副腎などがADTの間も微量のテストステロンを産生し続けるため、ADTのみでは長期的な効果を維持できない患者が少なくない。ザイティガは、テストステロンの前駆体であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、およびアンドロステンジオンを合成する酵素CYP17(17α水酸化酵素/C17,20リアーゼ)を阻害することにより、テストステロンなど男性ホルモンの体内での合成を阻止することが可能な分子標的薬である。
目次
ハイリスクの転移性前立腺がんと初めて診断された前立腺がん患者に対する一次療法として、アンドロゲン除去療法(ADT)にザイティガ+プレドニゾロン(商品名プレドニゾン)を併用投与した第3相無作為化比較試験(LATITUDE)の中間結果(Abstruct LBA3)
LATITUDE(、NCT01715285))は日本を含む全世界で実施されている大規模試験で、発表者のフランスParis-Sud大学のKarim Fazazi氏らは、本中間解析データを2017年6月4日のNew England Journal of Medicineにも発表した。
2013年2月12日から2014年12月11日に1199例が登録され、本中間解析のデータカットオフ日は2016年10月31日、追跡期間中央値は30.4カ月であった。
アンドロゲン除去療法(ADT)+ザイティガ+プレドニゾン併用群に597例、ADT群(プラセボ併用群)に602例が割り付けられ(以下、ザイティガ+プレドニゾロン併用群、ADT単独群)、ザイティガは1000mgを1日1回経口投与、プレドニゾンは5mgを1日1回経口投与し、ADTは黄体ホルモン放出ホルモン(LHRH)作動薬の投与、または精巣摘出術を施した。なお、プレドニゾンはザイティガが引き起こす可能性があるカリウムの低下、または血圧上昇といった副作用を管理する目的で従来から用いられているコルチコステロイドである。主要評価項目は、全生存期間(OS)、および放射線学的評価に基づく無増悪生存(rPFS)期間の複合エンドポイントであった。
その結果、治療期間中央値はザイティガ+プレドニゾン併用群が24カ月、ADT単独群は14カ月で、ザイティガ+プレドニゾン併用群はOS中央値の特定には至らず、ADT単独群(34.7カ月)と比べ有意に延長し、死亡リスクは38%低下した(ハザード比(HR)=0.62)。ザイティガ+プレドニゾン併用群のrPFS期間中央値(33.0カ月)はADT単独群(14.8カ月)より18.2カ月有意に延長し、増悪リスクが53%低下した(HR=0.47)。
副次評価項目、および探索的評価項目もすべてザイティガ+プレドニゾン併用群がADT単独群より有意に改善した。すなわち、がんによる痛みが悪化するまでの期間中央値はザイティガ+プレドニゾン併用群では特定に至らず、ADT単独群(16.6カ月)よりリスクが30%低下した(HR=0.70)。前立腺特異抗原(PSA)の上昇に基づく病勢進行までの期間中央値(各33.2カ月、7.4カ月)はザイティガ+プレドニゾン併用群がADT単独群より有意に延長し、リスクは70%低下した(HR=0.30)。また、PSAが基準値より50%以上低下した患者の割合(各91%、67%)もザイティガ+プレドニゾン併用群の方が有意に高く、ADT単独群の1.36倍(オッズ比(OR)=1.36)に達した。
グレード3からグレード4の有害事象は、主に高血圧(ザイティガ+プレドニゾン併用群20.3%、ADT単独群10.0%)、低カリウム血症(各10.4%、1.3%)、ALT上昇(各5.5カ月、1.3%)、およびAST上昇(各4.4%、1.5%)などであった。
以上、ハイリスクの転移性前立腺がんと初めて診断された前立腺がん患者への一次治療にザイティガを早期から介入させることで有意な延命、および増悪抑制といった意義のある効果が認められ、ベネフィット-リスクバランスも良好であった。
化学療法のドセタキセル(商品名タキソテール)による転移性前立腺がん患者に対する生存期間改善効果が報告されたのは2015年。そして2017年の現在、ザイティガも生存ベネフィットに貢献するというエビデンスが蓄積されつつある。Fizazi氏らは、ドセタキセルへのザイティガの上乗せ効果を評価する試験を欧州で実施している。
ハイリスクの局所進行または転移性前立腺がん患者に対する一次療法として、アンドロゲン除去療法(ADT)にザイティガ+プレドニゾンを併用投与した第3相無作為化比較試験(STAMPEDE)の中間結果(Abstruct LBA5003)
STAMPEDE(NCT00268476)は英国、およびスイスで実施されている多群マルチステージプラットフォームの第2/3相無作為化非盲検比較試験で、発表者の英国Queen Elizabeth病院のNicholas D. James氏らは、本中間解析データを2017年6月3日のNew England Journal of Medicineにも発表した。
2011年11月15日から2014年1月17日に1917例が登録され、本中間解析のデータカットオフ日は2017年2月10日、追跡期間中央値は40カ月であった。
アンドロゲン除去療法(ADT)+ザイティガ+プレドニゾン併用群に960例、ADT単独群に957例が割り付けられ(以下、ザイティガ+プレドニゾロン併用群、ADT単独群)、ザイティガは1000mgを1日1回経口投与、プレドニゾンは5mgを1日1回経口投与し、ADTは精巣摘出術、もしくは薬物療法(ゴナドトロピン放出ホルモン[GnRH]作用薬または拮抗薬)を実施した。治療期間は病期ステージと放射線療法の計画により異なり、転移がなく放射線療法の予定がない患者、および転移のある患者は病勢進行、または別の治療を開始するまで本試験の治療を継続した。転移がなく放射線療法を予定している患者は2年間、または病勢進行まで継続した。主要評価項目は治療成功生存(FFS)で、治療失敗の結果として前立腺特異抗原(PSA)が上昇、局所進行、リンパ節転移もしくは遠隔転移が認められるまで、または前立腺がんが原因で死亡するまでの時間、あるいは一定期間におけるFFS率であった。
その結果、ザイティガ+プレドニゾン併用群の3年生存率(83%)はADT単独群(76%)より有意に高く、死亡リスクが37%低下した(ハザード比[HR]=0.63)。3年間における治療成功生存(FFS)率(各75%、45%)もザイティガ+プレドニゾン併用群の方が有意に高く、治療失敗リスクが71%低下した(HR=0.29)。治療開始後54カ月間におけるFFS期間平均値は、ザイティガ+プレドニゾン併用群(43.9カ月)がADT単独群(30.0カ月)より13.9カ月延長した。
副次評価項目でもザイティガ+プレドニゾン併用群に有益性が認められた。3年間の無増悪生存(PFS)率(80%)はADT単独群(62%)より有意に高く、前立腺がんの増悪リスク、または前立腺がんを原因とする死亡リスクは60%低下した(HR=0.40)。3年間に症候性の骨格関連事象が発生しない患者の割合(各88%、78%)もザイティガ+プレドニゾン併用群が有意に高く、リスクは54%低下した(HR=0.46)。特に、ザイティガ+プレドニゾン併用群では転移のある患者集団で症候性の骨格関連事象が著しく減少した。解析までに死亡していた患者のうち、前立腺がんを死因とする患者の割合は、ザイティガ+プレドニゾン併用群が76%(140/184例)、ADT単独群が82%(216/262例)で、前立腺がんによる死亡リスクが42%低下した(競合リスクのサブハザード比=0.58)。
グレード3、グレード4の有害事象の発現率は、ザイティガ+プレドニゾン併用群(各41%、5%)がADT単独群(29%、3%)と比べ高かった。治療との因果関係が否定できないグレード5の有害事象は、ザイティガ+プレドニゾン併用群2例、ADT単独群1例に認められた。
以上、ADTにザイティガ+プレドニゾンを組み込むことにより、生存期間が延長するのみならず、治療成功の可能性が高くなることが示された。再発リスクや重篤な骨・骨格の合併症のリスクを減らせるという上乗せ効果が期待できる。
転移性前立腺がんのADT導入時に化学療法のドセタキセル(商品名タキソテール)を組み込むことによる有益性は既に報告されている。James氏らは、ADTにタキソテール、またはザイティガを併用することで有益性が得られる可能性のある患者集団の特性を把握するため、組織サンプルの分子解析を実施する計画である。本試験は、タキソテールやザイティガ、あるいは他の薬剤のADTへの上乗せ効果について、ネットワークメタアナリシスのアプローチを用いた間接的な比較に重要なデータを提供するものと考えられる。
Abiraterone Slows Advanced Prostate Cancer, Helps Patients Live Longer(ASCO News Releases)
記事:川又 総江
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