目次
オラパリブ(リムパーザ)、プラチナ感受性卵巣がんの維持療法で生存が延長、BRCA1/2変異例でより有効
6月3日から7日までシカゴで開催された第52回米国臨床腫瘍学会のAnnual Meeting(年次総会)にて、英国University College LondonのJonathan A. Ledermann氏が発表した。
プラチナ製剤感受性の再発漿液性卵巣がんに対し、PARP(パープ)阻害薬オラパリブ(リムパーザ)単剤による維持療法で全生存期間(OS)が延長することが、フェーズ2試験Study19のアップデート解析で明らかになった。またBRCA1/2遺伝子変異を有する患者で有効性が高かった。
BRCA遺伝子はDNA修復に関与する「がん抑制遺伝子」である。よって、先天的にBRCA遺伝子変異があると、普通の人よりがんの罹患リスクが高く。特に卵巣がんと乳がんのリスクが高い。こBRCA変異陽性の卵巣がんや乳がんのことを、遺伝性乳がん卵巣がんと呼ぶ。BRCA1は17番染色体長腕上に存在し、BRCA1変異があると16-44%が生涯の内に卵巣がんを発症する。BRCA2は13番染色体短腕上に存在し、BRCA2変異があると10%が生涯の内に卵巣がんを発症する。
BRCA遺伝子変異に有効とされているのがPARP阻害剤という薬剤である。BRCA遺伝子に変異があるとDNA修復できないのはがん細胞も同じであり、そのメカニズムを逆手に取り、がん細胞をアポトーシス(細胞自殺)に追い込むといった作用機序となる。今回の発表はそのPARP阻害剤の1つであるオラパリブ(リムパーザ)の臨床試験結果である。
全体の死亡リスクは27%減少、BRCA1/2変異例では38%減少
試験概要
●Study19の中間解析時の結果は2012年11月26日(58%の生存データが確定した時点)に報告されており、プラチナ製剤を用いた治療を2回以上受け、最終のプラチナ製剤レジメンで完全奏効(CR)もしくは部分奏効(PR)が得られた患者(265人)を対象に、オラパリブ(リムパーザ) 400 mgを1日2回もしくはプラセボを1日2回投与した。
*完全奏効もしくは部分奏効:腫瘍が一定以上縮小が認められたことを指す。
●この際の結果は、オラパリブ(リムパーザ)単剤の維持療法は、プラセボに比べ、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し(病勢が進行するリスクを平均値で65%減少)、BRCA1/2遺伝子変異を有する変異型患者ではよりオラパリブ(リムパーザ)によるベネフィットを得られることが示されている(病勢が進行するリスクを85%減少)。また次の治療もしくは死亡までの期間がオラパリブ(リムパーザ)の投与で有意に延長することも報告されている。
*維持療法(メンテナンス療法):治療が奏効したままで終了した場合、経過観察するのではなく、更に再燃・再発を防ぐことを目的とする治療方法
●副次評価項目の全生存期間(OS)に関しては、中間解析時点では、オラパリブ(リムパーザ)による全生存期間の改善は認められなかった(死亡リスクを22%減少させたが、生物統計学上で有意であることが証明されなかった)。
有効性に関する結果
今回は2015年9月30日をカットオフとし、77%の生存データが確定した時点のアップデートした全生存期間の結果が報告された。
①解析の結果、全生存期間中央値はオラパリブ(リムパーザ)群29.8カ月、プラセボ群27.8カ月で、平均値で27%死亡リスクを減少させた。
②BRCA変異型患者ではオラパリブ(リムパーザ)群34.9カ月、プラセボ群30.2カ月、死亡リスクを平均値で38%減少させた。
③BRCAに変異がない野生型の患者ではオラパリブ(リムパーザ)群でも良好な結果であった。
④「維持療法の後の次の治療までの期間」および「維持療法後の2番目の治療までの期間」はBRCA変異型、BRCA野生型ともにオラパリブ(リムパーザ)群で有意に良い結果であった。
⑤フォローアップ期間中央値は5.9年、オラパリブ(リムパーザ)群では15人(11%)が、プラセボ群は1人が治療を継続。BRCA変異型患者ではそれぞれ8人、1人が治療を継続していた。またオラパリブ(リムパーザ)治療を5年以上受けた患者は13%、BRCA変異型患者では15%、野生型患者では12%だった。
安全性(副作用)に関する結果
安全性は、2012年の結果と変わりなく、懸念された新たな骨髄異形成症候群 / 急性骨髄性白血病の発症例はなかった(オラパリブ(リムパーザ)群2人、プラセボ群1人)。オラパリブ(リムパーザ)群の主な有害事象は悪心、倦怠感、嘔吐、貧血で、2年以上治療を受けた患者での発現頻度は全患者の結果と変わらなかった。
まとめ
以上の結果から、Jonathan A. Ledermann氏は、プラチナ製剤に感受性のある再発漿液性卵巣癌患者において、オラパリブ(リムパーザ)による維持治療はプラセボに比べ生存改善に有効であったと結論付けた。
プラチナ・フリー・インターバルとは?
初回化学療法でシスプラチンまたはカルボプラチンのプラチナ系薬剤が投与されて奏効した場合、その後再発しても再びプラチナ系薬剤を投与して再び奏効することがある。この際初回治療でのプラチナ系薬剤の最終投与日と再発後のプラチナ系薬剤の投与日の間隔はプラチナ・フリー・インターバル(略語:PFI)と呼ばれ、再発卵巣がんの治療においてはプラチナ系薬剤再投与の効果予測因子となり、かつ強力な予後因子であることで知られている。
プラチナ・フリー・インターバル(PFI)とプラチナ系薬剤再投与時の奏効の関係は以下の通り。
・奏効との関係
①PFIが6〜12ヶ月の場合、奏効率は27%
②PFIが13〜24ヶ月の場合、奏効率は33%
③PFIが24ヶ月以上の場合、奏効率は59%
・感受性との関係
①PFIが6ヶ月未満の場合を「プラチナ耐性」
②PFIが6ヶ月以上の場合を「プラチナ感受性」
上記の通り区別されることが多く、近年、PFIが6〜12ヶ月の患者を「プラチナ部分感受性」として非プラチナ系薬剤を先行して行い、その後にプラチナ系薬剤を投与することで人為的にPFIを延長する治療戦略が検討されている。
参考 臨床腫瘍学(日本臨床腫瘍学会)南山堂 より引用一部改変
記事:前原 克章
この記事に利益相反はありません。