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第56回日本肺癌学会学術集会に参加しました(患者向けセッション参加レポート)

  • [公開日]2015.11.30
  • [最終更新日]2016.11.23

11月26日から28日の期間で「第56回 日本肺癌学会学術集会」がパシフィコ横浜で開催されました。

私はそのなかで26日と27日に参加しました。(本当は28日も参加したかったのですが・・・)

ご存知の方も多いと思いますが、この肺癌学会にはがん患者さんも参加できるセッションがあります。とても素晴らしいことですよね。今回は150人もの患者とそのご家族が参加されたとのことです。米国ではあたりまえになっているこの試みですが、日本ではこの肺癌学会を除いてほとんどない状況です。現在はまだ一部のセッションのみ参加可能となっていますので、今後さらに患者さんへの最新情報の共有が進んでいけばよいなと感じます。

 

それでは私が参加したセッションについてポイントとなる内容の紹介と先生のメッセージなどをお伝えします。(※ピックアップしたセッションのみとさせて頂きます)

目次

肺がんの概要
演者 日本医科大学附属病院 竹内進先生

肺がんの基本的な内容(肺がんの種類、診断、検査、治療など)をわかりやすく説明されていました。

■ポイント

・患者さんもある程度のがんの知識を持っておくとドクターとの話もよりしやすくなって良いと思う

・最新情報の入手も重要でネットでの検索が便利だが、あやしい広告やサイトに騙されないでほしい

セカンドオピニオンは積極的に活用しましょう。嫌がるような先生がいたらその先生を怪しんだほうが良い

・医療者も人間であり、患者さんの苦しみは良くわかっている。自分の家族にならどうするかを考えて治療しています。

 

薬物療法の進歩
演者 日本医科大学付属病院 水谷英明先生

これまでの薬物療法についての進歩を過去の振り返りをしつつ、支持療法により快適になってきたこと、分子標的薬について、注目の免疫療法についてまで、そして高精度医療プレシジョンメディシン)へ向かってさらに進歩していると説明されていました。

■ポイント

・効果だけでなく支持療法の進歩によりQOLの向上がなされてきている

・現在注目の免疫療法の薬は確かに期待は出来るが魔法の薬という訳ではない。副作用にも注意し慎重に。

・治療は進歩してきたとはいえ辛い事に変わりはない。辛い事があったら医師に相談してほしい。

・副作用で辛い事を言わない人がいる。隠さずに言ってほしい。

 

肺がんの臨床試験
演者 日本医科大学附属病院 峯岸裕司先生

臨床試験とはどのようなものか、基礎となる内容の説明を医薬品の開発の難しさ、重要性を踏まえながらお話されていました。また治験に参加することのメリット・デメリットもわかりやすく説明されていました。

■ポイント

・(ガイドラインと違う治療を薦められた方への応え) ガイドラインは絶対ではありません。限られた患者での結果を一般化したものである。エビデンスレベルの高い治療が最善な治療とは限らない。ゆえにガイドラインと違う治療をすることもある。しかしながらエビデンスをもって進められる治療には間違いない。

・日本のがん治療は遅れていると言われているが、日本は研究者医師レベル高く、患者さんも協力的であり未来はある。

・2010年で悪性腫瘍は1421億円で医薬品のなかでは2.1%で15位と決して高い割合ではない。またがんの治療薬は臨床試験を実施したもののうち承認されるのは約5%(アメリカ)と他製剤と比べて低い。このような背景から製薬企業はなかなか積極的になれない。

 

がんと医療情報
演者 国立がん研究センター中央病院 後藤悌先生

医療情報を知る上で大切なこと、情報の探し方、リスクについてをお話されていました。

■ポイント

・インターネットでの情報収集では誰がが書いたか、情報源、最終更新、所有者が明記されている事が重要である。

・怪しい広告やサイトに騙されないでほしい。2013年の調査では30サイト中10程度しか信頼できるサイトはなかった。

・有効な治療が高価で日本では保険診療ではないという誤解がある。科学的根拠のあるものは保険適用されるし、高額な自費治療は科学的根拠がないからこそ認められていない。ニボルマブなどは7万5000人の患者にたいして年間1000万円かかるので7500億円となる。高くても患者さんに良い治療をしようとしています。

 

「抗がん剤は効かない」論を検証しよう
演者 日本医科大学武蔵小杉病院  勝俣範之先生

近藤誠先生の医療否定本に対しての反論を説得力のあるお話でユーモアを交えつつ展開されていました。聴講者が溢れるほどの盛況ぶりでした。

■ポイント

抗がん剤は確かに副作用がありリスクを秘めている。(死亡率:手術3% 抗がん剤1~10%)しかし効果が無いというのは明らかな間違いである。

・医療に対する不信が近藤先生の意見の支持を集めてしまった。患者さんと医師とのコミュニケーション不足は問題である。

・安易な余命告知はしないほうが良い。75名に対し余命宣告とその結果を調べたところ一致(前後三分の一の範囲)は36%しかなかった。最善を期待し、最悪に備えましょう。

・がん患者を食い物にするインチキ治療を見分けるコツ
 - 保険がきかない高額医療
 - 体験談が載せられている
 - ○○免疫クリニック、」最新○○免疫療法
 - 先進医療に指定されていない
 - 奇跡の○○療法、末期がんからの生還
*2つ以上合致でインチキ確実

生活の質は個人で違う。大切にしたいこと、楽しみにしている事を医療者と話し合いましょう。

がんの医療費と医療制度
演者 国立がん研究センター中央病院先進医療室 藤原康弘先生

高額ながん治療の実態や対策について、現在使える制度について。また今後注目の制度である拡大治験や患者申出療養のお話を先生の考えを交えながらお話されました。

■ポイント

・がん患者が使える主な制度として高額療養費制度、傷病手当金、障害年金、介護保険等がある。高額療養費制度は多数該当や世帯合算も忘れずに。また、限度額適応認定証を申請すれば窓口負担を限度額までにできます。(条件有)

・医療費については学会でも発表が行われている
 2009年 ASCOで医師は患者とがん治療をめぐる費用について話し合うことを推奨した
 2013年 経済的な毒性について。の論文
 2015年 AACR がん治療をコントロールする場合

・来年4月から患者申出療養制度が始まる。海外・国内・未承認などあらゆる医薬品・医療機器・再生医療製品等が対応となるが、保険収載を前提に一定の安全性有効性が確認されたものという条件がある。ただし海外でも未承認のものはリスクが高くお勧めできない。

・海外で承認、日本で未承認のがん医薬品は42種類だった。肺がんは1個だけだった。(2015年7月)

・(患者申出療養制度を使用した場合の)薬剤費は自己負担となり抗がん剤はかなり高額なため、実質かなり裕福な方しか受けられないものである。今後がん保険で特約も出てくるかもしれない。

 

知っておこう、がんリハのこと
慶應義塾大学病院 リハビリテーション科 辻哲也先生

がん患者のリハビリテーションについて、その現状についてや重要性、どのようなことをやっているのかをお話しされていました。

■ポイント

・医学の進歩により、がんでも生きれてよかったからがんと共存していく時代となり、がんリハビリテーションの必要性は増大している。

・がんリハビリは拠点病院422施設中275施設(65.1%)で実施している。

・肺がんの場合呼吸リハも大切になってくる。深呼吸、たんを出す(ハフィング)、インセンティブスパイロメトリ、呼吸筋トレーニング、発声障害などの指導をしている。

 

セッションの紹介は以上です。

私の参加していない28日の講演もかなりの人数の方が参加されたと聞いております。この場で報告できず残念です。

 

 学会に参加しての感想

私は今回患者さん向けの講演を中心に聞いてきましたが、どれも患者さん向けにお話されており、基礎的な情報だけでなく、実際に役に立つ情報、最新の情報や今後の肺がん治療のことなど盛りだくさんの内容でした。また患者さんやご家族も沢山来場されておりメモを取りながら真剣に聞いている光景も多くあり、患者さんにとっても本学会への関心が高いことが伝わってきました。是非今後も患者が参加できる学会やイベントが増えて欲しいと思います。

講演の内容についてですが、お題に関してはそれぞれ違うのですが、いくつかの共通のメッセージがあったように感じました。それは以下の点です。

・国や医療者は患者のことをしっかり考えている事

・インターネット等がんの情報は沢山探すことが出来るようになったが誤った情報に惑わされないでほしい

・コミュニケーションをしっかりとり医師と患者で共により良い治療をしていきたい

最後に「オンコロ」の今後について少しお話します。講演の中でがん情報について信頼できる情報を掲載しているお勧めのサイトの紹介をしておりました。残念ながらそのなかにはオンコロの名前は挙がりませんでした(まだまだ未熟なサイトですし当たり前なのですが・・・)。でもいつか先生から薦めてもらえるサイトになりたいなと感じたのです。いつしかそうなれるよう、国、医療者、製薬企業には出来ない「オンコロ」だからこそのチャレンジをしていきたいと思います。

プレシジョンメディシンとは?

プレシジョンメディシン(Precision Medicine)は、日本語では高精度医療といい、がん細胞の遺伝子を次世代シークエンサーで解析し、がんの原因となった遺伝子変異を見つけ、その遺伝子変異に効果があるように設計した分子標的薬を使用するといった手法です。テーラーメード医療や個別化医療の一種です。
プレシジョンメディシン-オンコロ辞典

記事担当:HAMA

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