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化学(薬物)療法について
ほかの臓器に転移があるために手術ができない人や再発した場合には、抗がん剤を使った薬物療法を行います。転移がない場合でも、手術の後に再発予防の薬物療法を行うのが標準治療です。
●手術ができない人の第一選択
手術でがんを取りきることが難しい場合、標準的には次の5種類の薬物療法の中から治療法を選びます。
①点滴で投与するゲムシタビンの単独療法
②ゲムシタビンとエルロチニブの併用療法
③内服薬のS-1※(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)単独療法
④FOLFIRINOX(オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル/5‐FU、ロイコボリンカルシウム併用)療法
⑤ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用療法です。
医療機関によっては、①と③を併用する場合もあります。※S-1はTS-1と呼ばれることもある。
これまで行われた臨床試験の結果では、①~⑤の薬物療法の有効性と安全性には若干の違いがあります。どの治療法を受けるかは、患者さん本人の希望、生活スタイル、全身状態、年齢などによって決まることになります。それぞれの治療法の利点と欠点、副作用の説明を聞き、担当医とよく相談して、納得して選ぶようにしましょう。
①のゲムシタビン単独療法では、週1回、ゲムシタビン(1000mg/㎡)30分、制吐剤など30分で合計約1時間点滴投与する薬物療法を3週間行い、1週間休薬して4週間で1コースになります。つまり、1日目、8日目、15日目にゲムシタビンの投与を受け、22日目は休薬するパターンを繰り返します。
②のゲムシタビンとエルロチニブの併用法は、ゲムシタビンに加えて内服薬のエルロチニブ(100mg)を1日1回朝食より1時間以上前に服用するのが一般的です。ゲムシタビン単独療法より強い副作用が出やすいので、食欲と体力がある人に適した治療法です。
③のS-1単独療法は、内服薬のS-1を1日2回4週間服用し、2週間休薬して6週間で1コース。S-1は身長と体重から割り出される体表面積に応じて、1回40~60mg服用します。飲み薬なので、長時間点滴を受ける必要がないのが利点ですが、下痢などの消化器症状が出やすいため、もともとそういった症状がある人や薬の飲み忘れが多い人、腎機能障害がある人には不向きな治療法です。
④のFOLFIRINOX療法は、イリノテカン(180mg/㎡)、オキサリプラチン(85mg/㎡)、レボホリナートカルシウム(200mg/㎡)をあわせて4時間かけて点滴した後、5-FU(400mg/㎡)を急速(ボーラス)投与し、5-FU(2400mg/㎡)を46時間持続静注投与します。その後12日間は休薬して2週間で1コース、これを繰り返します。
持続静注は、鎖骨のあたりに薬を注入する中心静脈カテーテル(ポート)を埋め込み、そこに携帯型精密輸液ポンプをつなげて、持続的に薬を投与し続ける方法です。衣服を着用すれば外からカテーテルはみえませんし、持続静注中も睡眠、食事を含めて通常の生活を続けられます。
FOLFIRINOXはゲムシタビン単独療法に比べて若干高い効果が期待できるものの、副作用が強いので、食欲と体力があり全身状態のよい人に向いた治療法です。
⑤は、ゲムシタビン(1000mg/㎡)とナブパクリタキセル(125mg/㎡)を1週間に1回、3週間投与し、1週間休薬して1コース。これを繰り返します。
④は、初回に入院する場合がありますが、薬物療法は通常、通院治療で行われます。
●第二選択は1回目に使わなかった薬
最初に選択した薬物療法の効果がなくなった場合には、薬を変更します。ゲムシタビンを使った治療をしていた人には③か④というように、二次治療では一次治療では用いなかった薬を使います。切除ができない進行すい臓がんの場合は、効果と副作用をみながら可能な限り薬物療法を継続します。
●術後の薬物療法
術後化学療法は、手術でがんを取り除いても体に残っているかもしれない目にみえないくらいの微小ながんをたたき、再発リスクを減らす治療法です。すい臓がんでは手術後の化学療法は必須です。術後化学療法は、内服薬のS-1を1日2回4週間服用し、2週間休薬して6週間で1コース、これを4コース繰り返すのが標準治療です。下痢をしやすいなど、S-1を使えない人はゲムシタビン単独療法を行います。
●神経内分泌腫瘍の薬物療法
手術ができないくらいがんが広がっている神経内分泌腫瘍(悪性度の低いもの)に対しては分子標的薬のスニチニブかエベロリムスが第一選択です。また、2014年11月に、抗がん剤のストレプトゾシンがこの病気の治療薬として承認され、選択肢が広がりました。スニチニブとエベロリムスは1日1回服用する内服薬です。
ストレプトゾシンは1日1回5日間点滴して37日間休薬する方法と、1週間に1回投与する方法があります。インスリンなどのホルモンが過剰に産出される症状が出ているときには、注射薬のオクトレオチドを併用します。
本コンテンツは認定NPO法人キャンサーネットジャパンが2017年10月に出版した「もっと知ってほしい膵臓がんのこと」より抜粋・転記しております。