■この記事のポイント
・転移性乳がんに対して、治療歴を問わずカドサイラが有効であることを証明。
・カドサイラは既に承認済み。この試験の位置づけは治療歴に問わずにカドサイラが効果があることを証明すること。
・サンアントニオ乳がんシンポジウム2015にて発表。承認された薬剤を使用した意義のある臨床試験は数多く存在する。
12月8日~12日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム2015(SABCS2015)にて、「HER2陽性の転移性乳がんにおいて、トラスツズマブ(ハーセプチン)やラパチニブ(タイケルブ)にて治療したにも関わらず、がんが進行した患者に対して、T-DM1(カドサイラ)を使用したときの第3相臨床試験(TH3RESA)結果」がベルギーのKUルーフェンのハンスウィルディールス氏によって発表されました。なお、本試験に日本は参加していません。
目次
2次治療にて、カドサイラを使用していない方のための臨床試験
カドサイラは抗体薬物複合体に分類され、HER2を標的とする抗体であるハーセプチンに殺細胞性効果があるエムタンシンという物質を結合させた薬剤であり、「ハーセプチンに爆弾を搭載している薬剤」というイメージになります。
がん治療の標準治療を推奨するNCCNガイドラインでは、HER2タンパク陽性の転移性乳がん患者さんに対して、ハーセプチンとタキソールなどのタキサン系治療薬とパージェタを投与する1次治療後にカドサイラで治療を行う2次治療が推奨されています。日本でも、2013年11月に承認されており、同じく2次治療の使用が推奨されています。
この臨床試験に関して、ハンスウィルディールス氏は、「カドサイラが推奨される前に、他の治療で2次、3次治療を行った患者さんが多く存在することに言及。この試験は、治療薬歴によらず、2次治療以降でカドサイラの有効性を確認するための臨床試験である」と述べています。
生存期間を約7か月延長
この臨床試験には、HER2陽性の転移性乳がん患者にて、ハーセプチン、タイケルブおよびパクリタキセル(タキソール)などの治療を受け、進行した602名が参加し、カドサイラ3.6mg/kgを3週間ごとに投与する群と臨床医が選んだ治療薬を投与する群に分けられました。
◆有効性
カドサイラを投与された404名の全生存期間が22.7か月、一方臨床医が選んだ治療薬を投与された198名では全生存期間は15.8か月。
→従って、患者さんの年齢、ホルモン受容体発現の有無、内臓障害、試験の前に受けた治療内容に関係なく、カドサイラ投与群で全生存期間の有効性が認められた。
◆安全性
グレード3(中等度から重度)もしくはそれ以上の重篤な副作用の発現は、カドサイラ投与群よりも臨床医が選んだ治療群で高い傾向が見られ、発現率はカドサイラ投与群で40.0%、臨床医が選んだ治療群で47.3%。
「中間結果発表時にはカドサイラのがんの進行する期間がそれまでの治療より2倍長く延長していた。今回の発表ではカドサイラ投与群は、全生存期間を延長させただけでなく、安全性においても、副作用発現を減少させることが示され、この事実は、HER2タンパク陽性の患者さんにおいて、2次治療以降の重要な治療選択のひとつになる得る」とハンスウィルディールス氏は結論付けました。
本記事はESMO会員向けニュースレター及びASCO Postの記事を参照しています。
SABCS 2015: Ado-Trastuzumab Emtansine Improved Overall Survival for Heavily Pretreated Patients With HER2-Positive Breast Cancer
記事:前原 克章(構成・修正:可知 健太)
この記事に利益相反はありません。