5月16日、アストラゼネカ株式会社は、「EGFR T790M変異陽性 転移非小細胞肺がん治療薬タグリッソ~肺がん個別化医療を新たなステージに導く薬剤耐性獲得後の治療選択肢~」と題した記者向けの発表を行った。登壇者は、同社代表取締役社長ガブリエル・ベルチ氏および他2名。そして、国立がん研究センター中央病院 副院長 呼吸内科科長 大江 裕一郎医師であった。
オシメルチニブ(商品名タグリッソ)は、3月28日に「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のT790M変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に対して適応承認されており、薬価収載が待ち望まれる薬剤である。早ければ5月17日に開催する中央社会保険医療協議会にて薬価が決定する可能性がある。
なお、アストラゼネカ社は、薬価収載まで待てない患者のために、薬価収載前日までタグリッソを無償提供を実施している。
関連:EGFR T790M変異陽性転移非小細胞肺がん 第3世代EGFR-TKIタグリッソ 承認取得 発売前無償提供も(オンコロニュース2016/03/28)
目次
EGFR-TKI薬剤耐性を獲得したがんに効果が期待されるタグリッソ。1年で約1万人に恩恵
日本において年間死亡者数が73,000人に上る肺がん。そのうち、8~9割を非小細胞肺がんが占め、さらに、5~6割が非扁平上皮非小細胞肺がんが占める。そして、非扁平上皮非小細胞肺がんのうち、5~6割の方がEGFR変異が認められ、ゲフィチニブ(イレッサ)などのEGFR-TKIが効果が認められる。
しかしながら、イレッサをはじめ、アファチニブ(ジオトリフ)などは効果がいずれも1年程度で耐性化されることが問題点だった。
薬剤耐性のメカニズムは、「EGFR-TKIが結合できなくなるような二次変異を起こすもの」、「EGFR経路以外の細胞増殖経路の確保」および「小細胞肺がんへの転換」など様々な理由が考えられるが、中でも最も多い原因が、EGFR-TKI二次変異であるT790Mと呼ばれる遺伝子の変異であり、5~6割の方がこの原因により、耐性化されることが明らかになってきた。
タグリッソは、T790M変異が認められた非小細胞肺がん患者に対して、臨床試験(AURA1試験およびAURA2試験)にて効果を示された。この2試験併せて411人中81人が日本人患者であり、人種別で最多であった。
奏効率(腫瘍が一定以上縮小した患者の割合)は66.1%、無増悪生存期間(病態が進行するまでの期間)の中央値は9.7か月であった。また、タグリッソは脳関門を通ることができるため、脳転移を有する方にも有効であることが示唆されているとのこと。
なお、大江医師は「罹患者数から換算すると、タグリッソの恩恵を受ける肺がん患者は約1万人いる」との述べていた。
副作用が少ないように設計されているタグリッソ
タグリッソは、薬剤設計時から「野生型のEGFR(がん化には関係のないEGFR)」には結合しないように設計された。
これまでのEGFR-TKIの安全性に関する懸念点は、EGFR野生型にも結合してしまうため、間質性肺炎等の毒性が発現することである。
一方、タグリッソは野生型のEGFRには結合しづらいため、安全性への懸念は少ないとされている。事実、前述の臨床試験では、グレード3(中等度から重度)以上の副作用は1割程度にしか発現しておらず、通常のEGFR-TKIよりも少ないことが示されている。しかしながら、日本人に関しては、グレード3以上の副作用が3割程度発現しており、その原因はわかっていない。
患者がよく理解をして、使用することが必要
アストラゼネカ社は、安全性対策の強化体制をしくため、今後、3,000人もの使用成績調査を実施する他、以下の施策を行う。
重症副作用予防・対応を可能とする環境整備
タグリッソを納入する施設には、24時間患者からの連絡を受けることが出来るなどの「施設要件」と、肺がんの化学療法に十分な経験があるなどの「医師要件」を設定し、納入先を限定するとのこと。
患者用のツールを作成
アストラゼネカ社は、タグリッソを使用する患者用のツールを様々作成。「薬剤説明冊子」、「服薬手帳」および「(他院等に通院したときに提示する)注意喚起カード」である。そして、タグリッソ患者相談窓口を24時間体制で運営する。
大江医師は「患者自身が薬剤の特性を知り、副作用等の発現を記録し、タグリッソを処方される医療機関以外に通院した場合にはタグリッソを使用している旨を伝えることにより、最悪な事態を防ぐことが大切である」と訴えた。
EGFR変異陽性患者に対する今後のアプローチ
リキッドバイオプシー検査の確立が急務
タグリッソは、T790M変異が確認された患者を対象とする薬剤である。すなわち、EGFR-TKI耐性後に、腫瘍組織を採取することが必要であり、ガブリエル氏および大江医師は「一次治療後の全ての患者が組織を採取できるわけではなく、その点が、この薬剤の医療のボトルネックになるであろう」と話された。
筆者としては、血液中のRNAより変異を定量または定性するリキッドバイオプシーによる検査の確立が急務であると言えると考える。
初回治療としてのタグリッソの使用
現在、初回治療としてタグリッソを使用する第3相臨床試験(FULAURA試験)が実施中である。AURA試験の初回治療の方のデータでは、タグリッソを初回治療時に使用した場合の無増悪生存期間(病態が進行するまでの期間)の中央値は19.7か月、奏効率(腫瘍が一定以上縮小した方の割合)は77%と、期待ができるデータであるとのこと。ただし、このデータは第1相試験のサブ解析データであり、第3相試験であるFULAURA試験の結果が待たれる。
その他、術後補助化学療法としてタグリッソを使用する臨床試験(ADAURA試験)も実施中とのことである。
タグリッソ使用後の変異 C797S変異に対応する薬剤開発
タグリッソに対する薬剤耐性機構として、C797S変異という二次変異の存在が明らかになってきている。具体的な言及はされていないが、アストラゼネカ社はこういった変異もターゲットとしての研究開発を進めているとのことであった。
記事:可知 健太
キーワード AZD9291 Tagrisso Osimertinib
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