2017年9月8日から12日までスペイン・マドリードで開催されている欧州臨床腫瘍学会(ESMO)にて、プラチナ感受性再発卵巣がん患者に対するメンテナンス治療としてのPARP阻害薬であるルカパリブの有効性を証明した第III相のARIEL3試験(NCT01968213)の結果がイギリス・ロンドン・UCL Cancer InstituteのJonathan Ledermann氏より発表された。
本試験は、プラチナ製剤ベースの化学療法に寛解した悪性度の高い卵巣、卵管、または原発性腹膜がん患者に対するメンテナンス療法としてルカパリブ単剤療法を投与する群(N=375人)、またはプラセボを投与する群(N=189人)に2:1の割合で振り分け、主要評価項目である無病悪生存期間(PFS)を比較検証した国際共同二重盲検比較試験である。なお、プラチナ製剤ベースの化学療法に寛解とは、2回目のプラチナ製剤ベースの化学療法投与より6ヶ月以降に病勢進行が確認されることとしている。
本試験に登録された患者は全体で564人、その背景は2レジメン以上のプラチナ製剤ベースの化学療法の投与歴を有し、RECIST v1.1の評価により完全奏効(CR)、部分奏効(PR)が得られており、腫瘍マーカーであるCA-125は正常上限値より低い。
以上のような背景を持つ卵巣がん患者に対して、本発表では主要評価項目である治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)の結果を、生殖細胞系または体細胞にBRCA変異を有する群、BRCA変異またはBRCA野生型で高度なLOH(loss of heterozygosity)を持つ相当組換え欠損(HRD)状態の群、そしてITT(intention to treat)解析が施された群と3つのサブグループに分けて解析している。また、重要な副次評価項目としては独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)を設定している。
本試験の結果では、全てのサブグループにおいてルカパリブ群はプラセボ群と比較して無病悪生存期間(PFS)を改善することが証明された。それぞれの群における無病悪生存期間(PFS)中央値は下記の通りである。
生殖細胞系または体細胞にBRCA変異を有する群での治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群16.6ヵ月に対してプラセボ群で5.4ヵ月であった(ハザード比0.23、p <0.0001)。また、独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群26.8ヶ月に対してプラセボ群5.4ヶ月と(ハザード比0.20、p <0.0001)その差は顕著であった。
BRCA変異またはBRCA野生型で高度なLOHを持つ相当組換え欠損(HRD)状態群での治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群13.6ヵ月に対してプラセボ群で5.4ヵ月であった(ハザード比0.32、p <0.0001)。また、独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群22.9ヶ月に対してプラセボ群5.5ヶ月(ハザード比0.34、p <0.0001)であった。
ITT解析が施された群での治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群10.8ヵ月に対してプラセボ群で5.4ヵ月であった(ハザード比0.36、p <0.0001)。また、独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)中央値はプラセボ群に比べてルカパリブ群で8.3ヶ月(ハザード比0.35、p <0.0001)延長していた。
以上のように、プラセボ群に対するルカパリブ群の無病悪生存期間(PFS)の優越性が3つ全てのサブグループにおいて示された。また、その他解析項目としてBRCA野生型患者におけるLOHスコア別の無病悪生存期間(PFS)が検証されているが、その差は顕著であった。
BRCA野生型で高度なLOH群の治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群9.7ヵ月に対してプラセボ群で5.4ヵ月であった(ハザード比0.44、p<0.0001)。また、独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群11.1ヶ月に対してプラセボ群5.6ヶ月(ハザード比0.55、p=0.0.0135)であった。
一方、BRCA野生型で低度なLOH群の治験担当医師による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群6.7ヵ月に対してプラセボ群で5.4ヵ月(ハザード比0.58、p = 0.0049)と、サブグループ解析の中では最も悪い結果が確認された。また、独立判定機関による無病悪生存期間(PFS)中央値はルカパリブ群8.2ヶ月に対してプラセボ群5.3ヶ月(ハザード比0.47、p = 0.0003)であった。
以上のように、LOHスコアの違いにより無病悪生存期間(PFS)の差こそは出たが、高度なLOH群、低度なLOH群ともに無病悪生存期間(PFS)中央値はプラセボ群に比べてルカパリブ群で統計学的有意に改善していた。
最後に安全性であるが、治療の関連したグレード3以上有害事象としては貧血、AST/ALT上昇が発症した。貧血はルカパリブ群18.8%、プラセボ群0.5%、AST/ALT上昇はルカパリブ群10.5%、プラセボ群0%で確認された。なお、有害事象により治療の継続が困難になった症例はルカパリブ群13.4%、プラセボ群1.6%で、有害事象により死亡した症例はルカパリブ群1.6%、プラセボ群1.1%確認された。
以上の試験結果を受けて、ルカパリブはプラチナ製剤ベースの化学療法に寛解した再発卵巣がんに対するメンテンナンス療法として新しい治療選択肢になる可能性が示唆された。
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