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肺がん患者の経過観察にインターネットアプリを導入した第3相試験で死亡リスクが約70%低下 JNCI

  • [公開日]2017.12.16
  • [最終更新日]2018.12.16

肺がん患者がウェブ上の症状スコアリング画面に週1回入力する作業を継続すると死亡リスクが著しく低下したことが、統計学的に検証された。フランスInstitut Inter-regional de Cancerologie Jean BernardのFabrice Denis氏らによる研究成果で、2017年9月1日のJournal of the National Cancer Institute(JNCI)誌(109号9巻)に掲載された。

がん治療に適用するデジタルヘルスケアの研究は年々注目度が高まっており、同研究成果は2016年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも報告された(コチラ)。2017年のASCOでは、米国の研究グループが経過観察アプリについて、より多い症例数で癌種横断的な研究成果を発表した(コチラ)。

目次

経過観察アプリを利用する意義

肺がんの手術や薬物療法、放射線治療などを受けた後、または維持療法中の標準的な経過観察では、決められた受診日に定期的に医療機関を訪れ、問診や各種検査、画像診断などを通じて再発の有無が判定される。もちろん、状態急変時の対応は考慮されているものの、受診日の間隔は病期ステージなどに応じて3カ月ごと、あるいは6カ月ごとが一般的である。

こうした一律化された従来の経過観察手法では、次の受診日を待っている時間そのものが、患者にとっては再発不安の根源である。その待機時間に再発した場合、患者自身が気づき、自身の判断で受診しない限り、その時間分は発見が遅れ、次の対応も遅れることになる。とはいえ、画像診断は高コストで、無症候性の再発を検出する確率も高くはなく、その頻度を増やすことは現実的ではない。患者にとっても、頻回の受診日が予定されることはある意味で負担にもなる。

Denis氏らの研究グループは、個別化した経過観察戦略として患者が自身の症状をスコア化するアプリケーション「e-follow-up application(e-FAP)」を開発した。肺がんの再発を検出する特異的なアルゴリズムを搭載し、食欲、息切れ、抑うつといった自覚できる12項目の症状をスコア0からスコア3の4段階で判定するシステムで、入力が完了した症状スコアは、インターネットで直ちに医療チームに送信され、図式化フォーマットを介して可視化される仕組みになっている。

個別の診療スケジュールをデザインできるのみならず、動的データのリアルタイム分析により、決められた再発基準を満たす場合は医師へのアラートメールが自動的に発信される。再発病変に対する治療の期間中もe-FAPの利用を継続することで、状態に応じて治療方針の修正する、あるいはがんが再び進行した時を素早く捉えることに貢献する。e-FAPは、既に過去の試験で高い信頼性が裏付けられている。

経過観察アルゴリズムの性能を検証した初の第3相試験

フランスで2014年6月1日から2016年1月9日に実施された無作為化非盲検試験(NCT02361099)である。ステージIIからIVの非小細胞肺がん(NSCLC)、または小細胞肺がん(SCLC)で、無作為化割り付け前の3カ月以内に手術や薬物療法、または放射線治療などを受け、割り付け前の1カ月以内に画像診断で進行・再発病変がないことを確認された患者を適格例とした。計133例が登録され(ステージIVが6割以上を占めた)、e-FAP を利用する経過観察群(e-FAP群)、または標準的な経過観察群(標準群)に1:1に無作為に割り付けられた。

予め計画したCT検査の頻度は、ステージIIからIIIAの患者の場合、e-FAP群では割り付け6カ月後、12カ月後、および24カ月後の3回、標準群では6カ月ごとに24カ月後までの4回とされた。ステージIIIBからIVの患者の場合は、e-FAP群では12カ月後と24カ月後の2回、標準群では3カ月ごとに24カ月後までの8回とされた。主要評価項目は割り付け時を起点とする全生存期間OS)であった。

e-FAPの利用で1年生存率が5割増し

解析対象は121例(e-FAP群60例 標準群61例)で、中間解析時点(2016年1月9日)での全生存期間(OS)中央値は、e-FAP群(19.0カ月)が標準群(12.0カ月)より有意に延長し(p=0.002)、死亡リスクが68%低下した(ハザード比[HR]=0.32)。この結果を受けて、独立データモニタリング委員会(IDMC)はe-FAPの性能を有効と認め、同時点での試験終了を推奨した。1年生存率はe-FAP群が74.9%、標準群が48.5%であった。e-FAP群の死亡患者全例と標準群の1例以外の死亡患者は、いずれも癌の悪化が直接の死因であった(標準群1例の死因はアナフィラキシーショック)。追跡期間中央値が13カ月に達した時点での1年生存率も、e-FAP群(78.2%)が標準群(58.2%)より有意に高かった。病期ステージや組織型を考慮した補正後の比較でも、e-FAP群の延命効果が標準群より勝った。

e-FAPの利用でQOL改善とともに生存期間が延長

生活の質QOL)指標であるFACTスコアの割り付け前基準値で補正した場合でもe-FAP群のOSの方が有意に延長し、経過観察前のQOLは生存期間と有意な相関関係を示さなかった。経過観察前のQOLはe-FAP群の方が悪化していた。すなわち、FACTスコアの割り付け前基準値はe-FAP群(91.4)の方が標準群(99.6)より有意に低かった。しかし、試験開始後6カ月までのFACTスコアの変化はe-FAP群の方が改善方向に向き、スコアが安定または改善した患者の割合(80.6%)が、標準群(59.6%)より有意に高かった。一方、同スコアが悪化した患者の割合は標準群(41.4%)の方がe-FAP群(19.4%)より高かった。

e-FAPの利用で治療可能な全身状態を保持して再発検出

肺がんの再発はe-FAP群48.3%、標準群に50.8%に認められ、再発した患者のうち症候性であった患者の割合は両群ともに89%を占めた。無増悪生存期間PFS)中央値は両群間に有意差はなかった。全身状態(PS)スコア(スコア0から4、スコアが低いほど良好)が1回目の再発時に0または1であった患者の割合は、e-FAP群(75.9%)の方が標準群(32.5%)より有意に高く、e-FAP群の72.4%、標準群の32.5%の患者が最適な治療法に誘導された。

e-FAPの利用で予定外受診が増加するも医師負担への影響小

試験期間中の画像診断(CT、PET、またはMRI)で異常が見つかった件数は、e-FAP群(84件)が標準群(101件)より少なかった。e-FAP群の方が全生存期間(OS)が長かったこともあり、患者当たりの年間の画像診断頻度としては、e-FAP群は標準群より49%減少した。そして、予定外で受診した患者の割合はe-FAP群(58.3%)が標準群(24.6%)より2倍以上高く、最初のアラート発信により医師からの電話連絡を受け、予定外で受診した患者数は35例であった。予定された受診日と受診日との間に最初の再発が検出された患者の割合は、e-FAP群(72.4%)が標準群(32.5%)より2倍以上高かった。60人の医師がすべてのウェブアラートに対応するために費やした平均時間は15分程度であった。

Randomized Trial Comparing a Web-Mediated Follow-up With Routine Surveillance in Lung Cancer Patients(JNCI, Volume 110, Issue 4, 1 April 2018, Pages 436)

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