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米国臨床腫瘍学会(ASCO)が選ぶがん最先端研究の成果~アドバンス・オブ・ザ・イヤー~Journal of Clinical Oncology「Clinical Cancer Advances 2018」から

  • [公開日]2018.02.18
  • [最終更新日]2018.02.18

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、最新の年次報告書「Clinical Cancer Advances 2018」において、2016年10月から2017年9月までの論文や医学会議発表の内容に基づき、各分野の専門家20名の協議の下、飛躍的な進歩を遂げたとする基準を満たしたがんの治療や予防、患者ケアに関する研究成果を発表した。

目次

2017年「ADVANCE OF THE YEAR」はCAR-T療法

「ADVANCE OF THE YEAR」に選ばれたのは、養子細胞免疫療法であるキメラ抗原受容体発現T細胞CAR-T)療法。米国食品医薬品局(FDA)は2017年内に2つのCAR-T療法を承認した。世界初のCAR-T療法は、同年8月に承認されたtisagenlecleucel(商品名Kymriah)で、25歳以下の治療抵抗性、または2回以上再発したB細胞性急性リンパ芽球性白血病(r/r B-ALL)を対象とする。tisagenlecleucelは、B細胞に発現するCD19を標的として悪性細胞を探索・攻撃するように患者自身のT細胞を遺伝子改変し、再プログラミングしてから患者に戻す免疫療法であり、遺伝子療法でもある。

FDAが優先審査対象として審査したtisagenlecleucelの試験データは、治療対象としての再発または難治性の基準を満たしたr/r B-ALL患者に対する第2相試験で、日本からも参加した。tisagenlecleucelを投与後3カ月以内に82%の奏効率を叩きだした。しかも一時的な効果ではなく、投与後6カ月でも75%の患者は再発が認められなかった。リスクの最大関心はサイトカイン放出症候群CRS)と神経毒性で、製品枠組み警告にも明記され、こうしたリスクに対する可能な限りの対策も講じられている。FDAはtisagenlecleucelの承認と同時に、重度・重篤なCRSから救済する薬剤として抗IL-6抗体トシリズマブ(商品名アクテムラ)も承認した。また開発会社は、リスクの評価、回避・軽減法などを整備したプログラムの構築にも取り組み、情報提供ネットワークを強化している。

小児や若年成人のALLは既存の化学療法分子標的薬による初回治療で2割から3割が一旦は奏効するが、再発が珍しくなく、再発後の有効な治療法はほとんどなかった。そうした現状の中で登場したtisagenlecleucelについては、驚異的な奏効率が注目されたのみならず、リスク管理と製造・供給体制、保険関連や治療費支援などを含むアクセスプログラムの構築にも成功したことが注目に値する。

またtisagenlecleucelは、小児がんとして最も多いALLの治療に変革をもたらすとして注目されるばかりではなく、成人の治療困難な非ホジキンリンパ腫(NHL)の1つとされるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する有効性も証明されつつあり、適応拡大の可能性はかなり高い。

tisagenlecleucelの承認に続き、米国FDAは2017年10月、2つ目のCAR-T療法axicabtagene ciloleucel(商品名Yescarta)を成人のDLBCLを対象として承認した。tisagenlecleucel と同様、CD19を標的とするCAR-T療法で、最初に治療を受けたDLBCLを含む92例の奏効率はやはり82%と極めて高く、半数以上(52%)が完全寛解に達した。

2017年のがん治療最新動向

2016年11月から2017年10月までに、米国FDAは新たに31品目のがん治療法を承認し、その対象がん種は16を超える。2017年は、前述の養子T細胞免疫療法が初めて承認されたこと、がん種によらない治療法が承認されたことが歴史的にも大きな変革であり、また、同年に公表された免疫療法薬や分子標的薬に関する研究成果は、肺がんや前立腺がん、膀胱がんの治療のパラダイムシフトをもたらした。

遺伝学的根拠による治療法

FDAは2017年5月、がん種によらない治療法として初めて、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を承認した。がん種によらない治療法は、従来のようながんの原発臓器や病期ステージに基づく治療法ではなく、腫瘍の遺伝学的根拠に基づく治療法である。ペムブロリズマブの適応症は、ミスマッチ修復(MMR)欠損、または高頻度のマイクロサテライト不安定性(MSI-H)の小児および成人の進行固形がんで、大腸がんを含む15種の固形がん患者計149例が登録された5試験のデータに基づく迅速承認であった。ペムブロリズマブの投与により40%の患者の腫瘍が縮小し、うち78%の患者はその効果が6カ月以上持続した。昨今、ペムブロリズマブのようなPD-1標的抗体は特にMMR欠損の腫瘍に対する有効性が報告されている。これは、MMR欠損という遺伝子異常を持ったまま産生される蛋白質に対し、免疫システムが外敵として異常性を認識するため、免疫チェックポイントを外すことで強力な抗腫瘍免疫反応が誘導されると考えられている。

また2017年は、トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)遺伝子融合という遺伝子異常を標的とする分子標的薬ラロトレクチニブの早期臨床試験報告も注目された。ラロトレクチニブも原発臓器や病期を問わず、TRK遺伝子融合が確認されたがんであれば、小児でも成人でも有効性を発揮することが示されている。TRK遺伝子融合は、頻度0.5%から1%と極めて稀な遺伝子異常で、唾液腺がんや小児乳がん、乳児線維肉腫といった希少がんに多く認められている。希少がんゆえに治療法に乏しい現状から新しい道が拓ける可能性が期待されている。

免疫療法と化学療法を併用する肺がん治療が可能に

がん死亡原因のトップを争う肺がんは、その患者数の多さが治療法の進歩を後押しする。周術期の補助療法として化学療法や放射線併用療法が定着したことで予後が改善した1990年代を第1のパラダイムシフトとすれば、2000年代の上皮増殖因子受容体(EGFR)、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)などを標的とする分子標的薬の登場が第2、そして2015年の免疫チェックポイント阻害薬という免疫療法の登場が第3のパラダイムシフトとされる。

2017年の免疫療法は、ペムブロリズマブの適応追加が承認されたことが大きな進歩である。FDAが5月、転移性非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療としてペムブロリズマブと標準化学療法(カルボプラチンとペメトレキセド)の併用療法を承認した。その他、同年注目を集めた肺がんの新しい治療法は、ALK標的薬のアレクチニブ(商品名アレセンサ)、そして新たな免疫チェックポイント阻害薬でPD-L1標的抗体のデュルバルマブ(商品名Imfinzi)であった。

治療法の進歩に伴い、肺がんによる死亡率は1990年代初めから減少し始め、2005年から2014年にかけて毎年平均2.5%低下している。5年生存率は、1975年ではわずか11%であったのが、2007年から2013年では18%まで上昇した。

膀胱がんは充実した免疫療法が新たな標準治療へ

30年にわたりほとんど動いていなかった膀胱がんの治療法は近年進歩が著しく、2017年には、米国で免疫療法の選択肢が5品目揃った。PD-L1標的抗体のアテゾリズマブ(商品名テセントリク)は2016年から使用可能であったが、2017年に新たにニボルマブ(商品名オプジーボ)、アベルマブ(商品名バベンチオ)、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)、およびデュルバルマブ(商品名Imfinzi)が承認された。プラチナ製剤を含む化学療法が効かない尿路上皮がん患者が、第2、第3の治療法としてこれら免疫療法を選択できるようになった。腎機能の低下や全身状態が芳しくないといった理由でシスプラチンを含む標準的な化学療法を受けられない患者が約3分の2を占める現状を踏まえると、免疫療法の登場は支持療法しかなかった状況を打開するのみならず、その位置付けは新たな標準療法として認識されている。

難治性脳腫瘍に対する新戦略で生存ベネフィット改善

グレードIVの神経膠腫や多形神経膠芽腫(GBM)は、脳腫瘍の中でも治療困難で最も予後が悪いことで知られているが、米国では1999年から用いられているDNA作用薬のテモゾロミド(商品名テモダール)が貢献する新たな戦略が見いだされた。すなわち、腫瘍治療電場(TTF)とテモゾロミド、および放射線治療とテモゾロミドの2つの併用療法が普及し、2017年には定着しつつあることを示すデータが報告された。TTF は微弱交流電場を利用する頭皮貼り付け型治療機器で、FDAが2015年にテモゾロミドとの併用療法として承認した。2017年の報告ではより長期の追跡データが揃い、テモゾロミド単独と比べGBM患者の生存期間を延長することが示された。5年生存率は2倍以上(5%→13%)に上昇し、データの信頼性も高まってきた。

2つ目の新戦略は、高齢のGBM患者に対するテモゾロミドと短期コースの放射線照射の併用療法である。放射線治療にテモゾロミドを追加することで、生活の質QOL)を悪化させることなく死亡リスクが低下することが示された。さらに、遺伝子バイオマーカーとされるO6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)遺伝子のメチル化がある患者では、テモゾロミドと放射線の併用療法の生存ベネフィットが増大することも分かった。

乳がんにも卵巣がん治療薬オラパリブが適用可能に

卵巣がん維持療法として米国で承認されているポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬であるオラパリブ(商品名リムパーザ)は、2017年には生殖細胞系列BRCA遺伝子変異陽性HER2陰性の転移乳がんの新たな治療法となる可能性が複数の臨床試験結果から裏付けられた。2018年1月、FDAは化学療法を対照とする第3相試験データに基づき承認を決定した。日本では承認申請中である。

HER2陽性の乳がんでは、HER2標的薬のペルツズマブ(商品名パージェタ)、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)の2種を併用することで浸潤がんへの進展リスクが低下することが報告された。また、乳がんの術後ホルモン療法の期間を長くすることで無病生存率が上昇することが検証され、2017年下半期には、ホルモン療法として用いたアロマターゼ阻害薬の投与期間6年の患者集団は3年の患者集団より延長することが検証された。

卵巣がん維持療法の2つ目のPARP阻害薬でも有効性検証

オラパリブは米国で2017年、プラチナ製剤を含む化学療法で奏効した卵巣がんの維持療法として承認され、日本では2018年1月に承認を取得した。オラパリブと同様のPARP阻害薬ルカパリブ(商品名Rubraca)は生殖細胞系BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんの適応で2016年12月に米国で迅速承認され、両剤ともに卵巣がんの増悪を大幅に遅らせることが検証されている。特にルカパリブは、BRCA変異陽性の卵巣がん患者で最大のベネフィットが得られ、がんの進行を3倍以上遅延させた試験データが明らかになった。

悪性黒色腫の術後分子標的併用療法で再発予防を検証

日本でも既に悪性黒色腫の適応で承認されているBRAF阻害薬ダブラフェニブ(商品名タフィンラー)とMEK阻害薬トラメチニブ(商品名メキニスト)の併用療法は、2017年、ステージIIIの悪性黒色腫の術後療法として、再発リスクを有意に低下させることが報告された。半数以上の患者は3年間再発することはなく全生存率は86%であった。ただ、分子標的薬2剤併用療法により重篤な有害事象が増加し、計画していた治療期間を満了することができなかった患者も一定数存在したこともあり、現段階では最適な治療期間を提示するためのエビデンスは十分ではないとしている。

転移前立腺がんの標準治療はホルモン療法へのアビラテロン追加が主流へ

日本でも2014年9月から去勢抵抗性前立腺がんを対象に用いられているCYP17阻害薬のアビラテロン(商品名ザイティガ)は、標準的なアンドロゲン除去療法に追加することで明確なベネフィットが得られることが2017年、2本の大規模試験のデータが証明した。アビラテロンを追加しない場合と比べ、いずれの試験でも死亡リスクが40%近く低下し、3年生存率は80%を超えた。アンドロゲン除去療法は精巣でのテストステロン産生を抑制して前立腺がんの進行を遅らせるが、他の臓器でも微量のテストステロンや他のアンドロゲン類が作られる。アビラテロンはCYP17を阻害することで他のホルモンからのアンドロゲンの産生をも阻止するため、テストステロン以外のアンドロゲンも抑えることができると考えられている。

生活の質(QOL)を保護する控えめな治療について検証

従来から当然と考えられてきたこと、一般的と考えられてきたことを改めて見直し、従来とは異なる方法で治療を試みた結果、むしろ効果が改善したり、効果は同程度でも副作用などの負担が軽くなるケースが複数検証されている。

ステージIII大腸がんの術後化学療法を、通常は6カ月のところ3カ月に短縮する試みが行われた。痛みやしびれ、麻痺など患者にとって日常生活に大きな負担となる末梢神経障害を引き起こすオキサリプラチンをベースとするFOLFOX、あるいはCAPOXの治療を受けた米国や欧州、日本の計1万2000例を超える患者を対象とする6試験の累積データの解析によると、術後3年間に大腸がん再発のリスクは投与期間3カ月の集団は6カ月の集団よりわずかに低下し、6カ月間の投与を継続することで有効性のメリットはほとんどないと考えられた。一方、神経障害の発現頻度は6カ月投与と比べ3カ月投与で約3分の1に減少したことから、3カ月投与での安全性のメリットが際立った。リスクが低いステージIII大腸がんでは、投与期間3カ月が標準的な化学療法になる可能性が高い。高リスクの患者の場合は、再発リスクや化学療法耐容性、患者自身の希望を踏まえた十分な情報交換を行うことを前提に、3カ月への投与期間短縮を決定すべきとしている。

その他、悪性黒色腫の治療では、2017年、原発巣切除術に伴うセンチネルリンパ節の生検で腫瘍が発見されたとしても、従来のような追加のリンパ節切除は必ずしも必要ではないと結論できる調査報告がなされた。

また、早期乳がんで腫瘍部分を切除した後、がん組織辺縁に腫瘍が発見されなければ、従来のように2回目の手術で乳房摘出を行う必要ではないと結論できる2013年から2015年にかけての調査結果も報告された。2014年に米国外科腫瘍学会・放射線腫瘍学会が発表し、ASCOが承認した不要な乳房摘出回避を推奨する合意声明を裏付けた格好になった。

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