2018年2月21日、医学誌『The Lancet Oncology』にて切除後のBRAF遺伝子変異陽性悪性黒色腫(メラノーマ)患者に対する術後化学療法としてのベムラフェニブ(商品名ゼルボラフ;ゼルボラフ)単剤療法の有効性を検証した第III相のBRIM8試験(NCT0166741)の結果がUniversity Hospital of Siena・Michele Maio氏らにより公表された。
BRIM8試験とは、切除後のBRAF遺伝子変異陽性ステージIIC-IIIB悪性黒色腫(メラノーマ)患者に対して28日を1サイクルとして1日2回ゼルボラフ960mg単剤療法を52週間継続投与する群(N=93人)、またはプラセボ単剤療法を投与する群(N=91人)(コーホートA:184人)。または、切除後のBRAF遺伝子変異陽性ステージIIIC悪性黒色腫(メラノーマ)患者に対して1日2回ゼルボラフ960mg単剤療法を52週間継続投与する群(N=157人)、またはプラセボ単剤療法を投与する群(N=157人)(コーホートB:314人)に無作為に振り分け、主要評価項目として無病生存期間(DFS)、副次評価項目として無転移生存期間(MFS)、有害事象(AE)発症率などを比較検証した多施設共同二重盲検下の第III相試験である。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はコーホートAのゼルボラフ群55歳(40-61歳)、プラセボ群50歳(38-58歳)、コーホートBのゼルボラフ群51歳(43-60歳)、プラセボ群49歳(40-59歳)。人種は白人比率コーホートAのゼルボラフ群99%(N=84人)、プラセボ群89%(N=81人)、コーホートBのゼルボラフ群96%(N=150人)、プラセボ群96%(N=150人)。パフォーマンス・ステータス(PS)状態0はコーホートAのゼルボラフ群88%、プラセボ群86%、コーホートBのゼルボラフ群92%、プラセボ群87%。BRAF遺伝子変異のステータスはV600E遺伝子変異割合はコーホートAのゼルボラフ群91%(N=77人)、プラセボ群89%(N=67人)、コーホートBのゼルボラフ群90%(N=123人)、プラセボ群93%(N=129人)。
上記背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。コーホートBにおける主要評価項目である無病生存期間(DFS)中央値はゼルボラフ群23.1ヶ月(95%信頼区間:18.6-26.5ヶ月)に対してプラセボ群15.4ヶ月(95%信頼区間:11.1-35.9ヶ月)、ゼルボラフ投与により再発またはその他疾患発症のリスクは20%減少(ハザードリスク比:0.80,95%信頼区間:0.54-1.18,P=0.26)するも統計学的有意な差はなかった。なお、1年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群78.9%(95%信頼区間:70.5-87.3%)に対してプラセボ群58.0%(95%信頼区間:47.8-68.1%)、2年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群46.3%(95%信頼区間:35.4-57.1%)に対してプラセボ群47.5%(95%信頼区間:37.1-57.9%)を示した。
また、コーホートAにおける主要評価項目である無病生存期間(DFS)中央値はゼルボラフ群未到達(95%信頼区間:未到達)に対してプラセボ群36.9ヶ月(95%信頼区間:21.4-未到達)、ゼルボラフ投与により再発またはその他疾患発症のリスクは46%統計学的有意に減少(ハザードリスク比:0.54,95%信頼区間:0.37-0.78,P=0.0010)するも、コーホートBにおいて統計学的有意な差は確認されなかったためこの結果は特に重要ではないと示された。なお、1年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群84.3%(95%信頼区間:78.5-90.2%)に対してプラセボ群66.2%(95%信頼区間:58.7-73.7%)、2年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群72.3%(95%信頼区間:64.9-79.8%)に対してプラセボ群56.5%(95%信頼区間:48.5-64.4%)を示した。
探索的解析としてコーホートA、コーホートBの患者を併せたITT集団における無病生存期間(DFS)中央値はゼルボラフ群未到達(95%信頼区間:未到達)に対してプラセボ群25.8ヶ月(95%信頼区間:20.5-未到達)、ゼルボラフ投与により再発またはその他疾患発症のリスクは35%統計学的有意に減少(ハザードリスク比:0.65,95%信頼区間:0.50-0.85,P=0.0013)を示した。なお、1年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群82.2%(95%信頼区間:77.4-87.1%)に対してプラセボ群63.1%(95%信頼区間:57.1-69.2%)、2年無病生存率(DFS)はゼルボラフ群62.2%(95%信頼区間:55.8-68.6%)に対してプラセボ群53.1%(95%信頼区間:46.8-59.5%)を示した。
副次評価項目であるコーホートBにおける無転移生存期間(MFS)中央値はゼルボラフ群37.2ヶ月(95%信頼区間:22.1ヶ月-未到達)に対してプラセボ群30.7ヶ月(95%信頼区間:24.5-未到達)、ゼルボラフ投与により転移のリスクを9%減少(ハザードリスク比:0.91,95%信頼区間:0.57-1.44,P=0.68)するも統計学的有意な差はなかった。また、コーホートAにおける無転移生存期間(MFS)中央値はゼルボラフ群もプラセボ群も未到達(95%信頼区間:未到達)、ゼルボラフ投与により転移のリスクを42%統計学的有意に減少(ハザードリスク比:0.58,95%信頼区間:0.37-0.90,P=0.013)した。なお、探索的解析としてコーホートA、コーホートBの患者を併せたITT集団における無転移生存期間(MFS)中央値も検証しており、ゼルボラフ群未到達(95%信頼区間:未到達)に対してプラセボ群47.8ヶ月(95%信頼区間:30.7-未到達)、ゼルボラフ投与により転移のリスクは30%統計学的有意に減少(ハザードリスク比:0.70,95%信頼区間:0.52-0.96,P=0.027)を示した。
一方の安全性として、グレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)発症率はゼルボラフ群57%(N=141/247人)、プラセボ群15%(N=37/247人)を示した。ゼルボラフ群において最も一般的に発症したグレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。ケラトアカントーマ10%(N=24/247人)、関節痛7%(N=17/247人)、扁平上皮がん7%(N=17/247人)、皮膚障害6%(N=14/247人)、 ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)上昇6%(N=14/247人)。なお、ゼルボラフ群を投与した患者の内20%(N=49/247人)は治療関連有害事象(TRAE)のために治療中止しており、その原因は皮膚または筋骨格組織に関連する有害事象(AE)のためである。
以上のBRIM8試験の結果よりMichele Maio氏らは下記のように結論を述べている。”コーホートB群における術後化学療法としてのゼルボラフ単剤療法は主要評価項目である無病生存期間(DFS)を達成できませんでした。そのためコーホートA群における術後化学療法としてのゼルボラフ単剤療法の結果は探索的なものであると見なす必要があります。以上の理由より、BRAF遺伝子変異陽性悪性黒色腫(メラノーマ)患者さんに対する術後化学療法としてのゼルボラフ単剤療法は最適な治療レジメンとして相応しいとは言えないでしょう。”
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