・ハイリスクを有する子宮体がん患者を対象とした第3相試験
・術後化学療法としてのタキサン系抗がん剤ベースの治療レジメンの有効性・安全性を比較検証
・現在の標準治療であるドキソルビシン+シスプラチン併用療法の代替療法になり得る可能性
2019年3月21日、医学誌『JAMA Oncology』にてハイリスクを有する子宮体がん患者に対する術後化学療法としてのタキサン系抗がん剤ベースの治療レジメンの有効性、安全性を比較検証した第3相試験(UMIN000000522)の結果が慶應義塾大学医学部・産婦人科学の野村 弘行氏らにより公表された。
本試験は、ハイリスクを有する子宮体がん患者(N=788人)に対する術後化学療法として3週を1サイクルとしてドキソルビシン60mg/m2+シスプラチン50mg/m2併用療法を6サイクル投与する群(N=263人)、または3週を1サイクルとしてドセタキセル70mg/m2+シスプラチン60mg/m2併用療法を6サイクル投与する群(N=263人)、または3週を1サイクルとしてパクリタキセル180mg/m2+カルボプラチン6.0mg/mL × min併用療法を6サイクル投与する群(N=262人)に1対1対1の割合で振り分け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、治療関連有害事象(TRAE)発症率を比較検証した多施設共同ランダム化の第3相試験である。
本試験が実施された背景として、現在、ハイリスクを有する子宮体がんに対する術後化学療法としての標準治療はドキソルビシン+シスプラチン併用療法である。しかしながら、最近はタキサン系抗がん剤であるドセタキセル、パクリタキセルの有用性も確認されている。以上の背景より、ドキソルビシン+シスプラチン併用療法に対するドセタキセル+シスプラチン、パクリタキセル+カルボプラチン併用療法の有用性が本試験より検証された。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。
ドキソルビシン+シスプラチン群=58歳(22-74歳)
ドセタキセル+シスプラチン群=59歳(29-74歳)
パクリタキセル+カルボプラチン群=59歳(31-74歳)
ドキソルビシン+シスプラチン群=スコア0が88.6%、スコア1が10.6%
ドセタキセル+シスプラチン群=スコア0が88.6%、スコア1が10.3%
パクリタキセル+カルボプラチン群=スコア0が82.8%、スコア1が14.9%
FIGO分類にリスク分類
ドキソルビシン+シスプラチン群=ステージICが20.5%、ステージIIが9.9%、ステージIIIが63.5%、ステージIVが6.1%
ドセタキセル+シスプラチン群=ステージICが22.4%、ステージIIが8.0%、ステージIIIが64.3%、ステージIVが5.3%
パクリタキセル+カルボプラチン群=ステージICが22.1%、ステージIIが9.2%、ステージIIIが60.3%、ステージIVが8.4%
リンパ節転移部位
ドキソルビシン+シスプラチン群=骨盤のみ37.6%、骨盤と傍大動脈61.6%
ドセタキセル+シスプラチン群=骨盤のみ44.5%、骨盤と傍大動脈55.5%
パクリタキセル+カルボプラチン群=骨盤のみ43.9%、骨盤と傍大動脈55.7%
以上のように3群間で患者背景に大きな偏りはなかった。
本試験の追跡調査期間約7年、病勢進行または死亡(PFS)のイベント202件、死亡(OS)のイベント133件発生時点における結果は下記の通りである。主要評価項目である5年無増悪生存率(PFS)はドキソルビシン+シスプラチン群73.3%に対してドセタキセル+シスプラチン群79.0%、パクリタキセル+カルボプラチン群73.9%を示し、3群間で統計学的な有意な差は確認されなかった(P=0.12)。
また、副次評価項目である全生存率(OS)は、ドキソルビシン+シスプラチン群82.7%に対してドセタキセル+シスプラチン群88.1%、パクリタキセル+カルボプラチン群86.1%を示し、3群間で統計学的な有意な差は確認されなかった(P=0.67)。
一方の安定性として、多くの患者で確認されたグレード3以上の有害事象(AE)発症率は下記の通りである。リンパ球減少はドキソルビシン+シスプラチン群83.5%、ドセタキセル+シスプラチン群74.3%、パクリタキセル+カルボプラチン群66.0%、好中球減少はドキソルビシン+シスプラチン群96.6%、ドセタキセル+シスプラチン群89.3%、パクリタキセル+カルボプラチン群91.5%、発熱好中球減少症はドキソルビシン+シスプラチン群15.7%、ドセタキセル+シスプラチン群6.1%、パクリタキセル+カルボプラチン群4.6%、貧血はドキソルビシン+シスプラチン群34.1%、ドセタキセル+シスプラチン群16.9%、パクリタキセル+カルボプラチン群29.0%。以上のように、リンパ球減少、好中球減少、発熱好中球減少症、貧血はタキサン系抗がん剤ベースの治療群で比較的発現が少なかった。
また、血小板数減少はドキソルビシン+シスプラチン群12.6%、ドセタキセル+シスプラチン群0.8%、パクリタキセル+カルボプラチン群19.3%。血小板数減少はパクリタキセル+カルボプラチン群で高率に発現が確認された。その他、拒食症、吐き気、嘔吐、下痢等の消化器系関連の有害事象(AE)はシスプラチンベースの治療群で発現が多かった。
以上の第3相試験の結果より野村 弘行氏らは以下のように結論を述べている。”ハイリスクを有する子宮体がん患者に対する術後化学療法としてタキサン系抗がん剤ベースの治療レジメンは、現在の標準治療であるドキソルビシン+シスプラチン併用療法の代替療法になり得る可能性が本試験より示唆されました。”