・標準治療抵抗性のあるHER2低発現の進行性乳がん患者が対象の1b相試験
・抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン単剤療法の有効性・安全性を検証
・客観的奏効率は独立評価機関判定で37.0%、主治医評価で44.4%を示した
2020年2月14日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて標準治療抵抗性のあるHER2低発現の進行性乳がん患者に対する抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)単剤療法の有効性、安全性を検証した第1b相試験(NCT02564900)の結果がMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのShanu Modi氏らにより公表された。なお、HER2低発現の定義はIHC1+、IHC2+、ISH−として測定された患者である。
本試験は、標準治療抵抗性のあるHER2低発現の進行性乳がん患者に対して3週を1サイクルとしてトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)5.4~6.4mg/kg単剤療法を病勢進行または予期せぬ有害事象(AE)が発現するまで投与し、主要評価項目として独立評価機関判定による客観的奏効率(ORR)、安全性などを検証した米国・日本多施設共同オープンラベルの第1b相試験である。
本試験が開始された背景として、HER2陽性の進行性乳がんの予後は抗HER2モノクローナル抗体をはじめとした治療薬により近年向上している。しかしながら、乳がん患者の約40~50%はHER2低発現(IHC1+、IHC2+、ISH−)であり、HER2検査ガイドライン上でこのような患者はHER2陰性として診断される。
また、HER2低発現の進行性乳がん患者に対しては抗HER2モノクローナル抗体をはじめとした既存の治療薬では効果不十分であり、使用は推奨されていない。以上の背景より、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)単剤療法の有用性が本試験にて検証された。
本試験に登録された54人の患者背景は下記の通りである。年齢中央値は56.6歳(33‐75歳)。人種は日本人50.0%、アメリカ人50.0%。ECOG Performance Statusはスコア0が66.7%、スコア1が33.3%。乳がん診断後の経過年次は105.0ヶ月(13.0‐290.3ヶ月)。前治療歴中央値は7.5レジメン(2‐16レジメン)。前治療歴の種類はCDK4/6阻害薬29.6%、抗HER2抗体18.5%、その他1.9%。ホルモン受容体ステータスは陽性87.0%、陰性13.0%。転移部位は骨63.0%、肝臓53.7%、肺25.9%、脳9.3%。
以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は独立評価機関判定で37.0%(95%信頼区間:24.3%‐51.3%)、主治医評価で44.4%(95%信頼区間:30.9%‐58.6%)を示した。
また、副次評価項目である病勢コントロール率(DCR)は独立評価機関判定で87.0%(95%信頼区間:75.1%‐94.6%)、主治医評価で83.3%(95%信頼区間:70.7%‐92.1%)を示した。無増悪生存期間(PFS)中央値は独立評価機関判定で8.0ヶ月(95%信頼区間:5.6‐13.9ヶ月)、主治医評価で11.1ヶ月(95%信頼区間:7.6ヶ月‐未到達)を示した。
一方の安全性として、グレード1以上の治療関連有害事象(TRAE)発症率は98.1%を示し、30%以上の患者で確認された治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。吐き気、食欲減退、下痢、脱毛、嘔吐、貧血、便秘、疲労、白血球数減少、血小板数減少、口内炎であった。
また、グレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)発症率は63.0%を示し、5%以上の患者で確認された治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。好中球数減少、白血球数減少、貧血、低カリウム血症、血小板数減少、AST増加、食欲減退、発熱性好中球減少、蜂巣炎、下痢であった。
以上の第1b相試験の結果よりShanu Modi氏らは以下のように結論を述べている。”治療歴のあるHER2低発現進行性乳がん患者に対する抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)単剤療法は、客観的奏効率(ORR)44.4%を示し、良好な抗腫瘍効果を示しました。”
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