監修:日本医科大学 勝俣範之 先生
全身的な効果が期待でき、広い範囲の治療や転移の可能性があるがんで用いられます
薬物療法は、主に細胞の増殖を防ぐ抗がん剤やホルモン剤、免疫療法剤などを使う治療法です。薬物療法に使用される薬剤を抗がん剤といい、がんが増えるのを抑えたり、がんが大きくなるスピードを遅らせる、また転移や再発を防いだり、小さながんで転移しているかもしれないところを治療するためなどに使われています。手術治療や放射線治療が、がんに対しての局所的な治療であるのに対して、薬物療法は、投与後、血液中に入って全身をめぐるために、より広い範囲、全身的な効果が期待できます。そのため、転移のあるときや、転移の可能性があったり、転移を予防するために用いられたり、また血液やリンパのがんのように広い範囲に治療を行う必要があるときに行われます。
抗がん剤は、現在約130種類近くあり、注射をして投与するものと飲み薬などがあります。筋肉注射や胸腔内、腹腔内、各種臓器やがんそのものへ直接投与する場合もあります。投与期間や作用機序もさまざまで、単独の薬剤を使って治療するだけでなく、数種類を組み合わせて治療することもあります。
抗がん剤は、作用の仕方などによって、いくつかの種類に分類されます。化学物質によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療を「化学療法」、また、がん細胞だけが持つ特徴を分子レベルでとらえ、それを標的にした「分子標的薬」を用いて行う治療を「分子標的治療」と呼びます。また、がん細胞の増殖にかかわる体内のホルモンを調節して、がん細胞が増えるのを抑える薬剤を用いた治療をホルモン療法といいます。
化学療法は、がんの種類や、広がり、ステージ、他に行う治療や、患者さんの病状などを考慮して検討されます。化学療法の場合、治療を行う日と、行わない日を組み合わせた1~2週間程度の周期を設定して治療を行います。この周期となる期間を「1クール」「1コース」などの単位で数え、一連の治療として、複数回繰り返して行われるのが一般的です。1コース目だけ入院して、2コース目以降は外来で化学療法を行ったり、はじめから入院しないで外来で化学療法を行ったりすることが多いです。
薬物療法で心配になるのが副作用かもしれません。抗がん剤は、増殖するがん細胞に作用しますが、正常な細胞でも、特に口や胃腸の粘膜、毛根の細胞などは影響を受けやすいため、貧血や吐き気、口内炎、下痢、味覚の変化や脱毛、爪の変化などの症状が副作用としてあらわれます。ですが、最近では、抗がん剤が進歩してきたことや、副作用が起こる症状を緩和したり、副作用に対する治療が進歩してきています。副作用の起こりやすさは、薬の種類によっても異なりますし、個人差もあります。副作用が強く出た場合は、薬の量を調整したり、治療を休止、中止ということもありますが、副作用をおさえる治療を組み合わせたりしながら治療を進めていきます。
最近では、免疫チェックポイント阻害薬という新しい薬を用いた免疫療法が保険診療として認められ、肺がんや胃がんなどで用いられるようになっています。免疫療法とは、体の免疫を強めることによってがん細胞を排除するというものですが、有効性が認められていないものも多く存在しています。効果が明らかになっていない治療法は、保険診療として認められていないことから、自由診療として行っている医療機関もありますが、これらの自由診療で行っている免疫療法は、後述するような診療ガイドラインでも推奨されているものはありませんので、十分に注意して下さい。検討する際には、医師などに相談し、信頼できる情報を集めるようにしてください。