2016年6月3日から7日までシカゴで開催された第52回米国臨床腫瘍学会(ASCO:アスコ)Annual Meeting(年次総会)にて、プログラム細胞死受容体(PD-1)を標的とするがん抗体医薬「キートルーダ」(一般名 ペムブロリズマブ)の再発/転移性(R/M)扁平上皮頭頸部がん(HNSCC)患者に対する第2相試験(KEYNOTE-055、NCT02255097)の中間解析結果が、米国ペンシルバニア大学のJoshua Bauml氏により発表された。
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部分奏効(PR)18%、病勢安定(SD)18%、標準化学療法と比較している第3相試験の結果に期待
KEYNOTE-055は2014年10月に開始された単群オープンラベル試験で、プラチナ製剤とアービタックス(一般名 セツキシマブ、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)標的のモノクローナル抗体)の治療に抵抗性を示した再発/転移性 扁平上皮頭頸部がん患者172人を対象としてキートルーダ200mgを3週毎に静注した。ASCO 2016で発表された中間解析対象は50人で、84%の患者は2療法以上の転移巣への治療歴があった。追跡期間中央値6.8カ月で、9人は部分奏効が確定して奏効率18.0%、9人中5人はデータカットオフ時でも奏効が持続していた。さらに、病態安定が9人に認められた。
治療と関連するグレード3~5の有害事象は6人(12.0%)に発現し、有害事象を理由とする治療中止は2人(4%)、死亡は1人(2%)であった。免疫学的に特有の有害事象は11人(22%)に認められ、主に甲状腺機能低下症(7人、すべてグレード2)、間質性肺炎(グレード2が2人、グレード5が1人)であった。
KEYNOTE-055に登録された患者は、前治療のプラチナ製剤とアービタックスの効果が消失したか、もしくは有益性が得られなかった患者である。この患者集団の全生存期間8カ月という数字は有望である。というのも、化学療法やアービタックスの治療に反応しない多くの患者が6カ月以内に死亡している現実があるからである。
またキートルーダは、現在、中咽頭の頭頸部がんの原因とされるヒトパピローマウイルス (HPV)の陽性、陰性を問わず有効性を発揮する可能性があり、KEYNOTE-055ではHPVの感染状態や解剖学的部位による有効性解析を含め、全対象の解析を進めている。
治療困難な頭頸部がんに新たな選択肢となりうるか
KEYNOTE-055はフェーズI試験(KEYNOTE-012、NCT01848834)の結果を検証した形となった。Bauml氏は、頭頸部がん治療におけるキートルーダの臨床的価値が早くも明らかになりつつあるとして期待を寄せる。「PD-1経路を標的とする免疫療法は、標準的治療が効かず選択肢がほとんどない患者を救える可能性を示した。キートルーダは、HPVの状態にかかわらず、悪性度の高い頭頸部がんの治療の空隙を埋めることになるかもしれない」
全世界で30を超えるがん種で臨床試験進行中
日本国内でキートルーダは、切除不能または転移性の悪性黒色腫で2012年12月に、切除不能の進行または再発の非小細胞肺がんで2016年2月に承認申請された。現在は膀胱がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、胃がん、頭頸部がん、多発性骨髄腫、食道がん、大腸がん、ホジキンリンパ腫などを対象に臨床試験が行われており、治癒切除不能の進行・再発胃がんでは、厚労省の「先駆け審査指定制度」施行後の初の対象品目の一つに指定された。
悪性黒色腫の適応では米国と欧州で、非小細胞肺がんの適応では米国で承認を取得しており、全世界では30を超えるがん種を対象に270以上の臨床試験が進められている。
免疫チェックポイント阻害薬は抗腫瘍免疫のブレーキを解除する
がん細胞が発生すると、T細胞に発現しているPD-1とがん細胞に発現するリガンドPD-L1が信号をやり取りし、抗腫瘍免疫を司るT細胞からのがん細胞への攻撃にブレーキがかかる。このPD-1とPD-L1との相互作用がチェックポイントとして働き、T細胞の機能を止めるスイッチを入れると、がん細胞の生存と増殖の暴走は止まらない。そこで、PD-1、もしくはPD-L1に結合する抗体によってチェックポイントを働かないようにするのがチェックポイント阻害療法で、キートルーダはPD-1に結合するモノクローナル抗体である。
Preliminary results from KEYNOTE-055: Pembrolizumab after platinum and cetuximab failure in head and neck squamous cell carcinoma (HNSCC).(ASCO2016 Abstract No.6011)
記事:川又 総江
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