上皮増殖因子受容体(EGFR)-T790Mチロシンキナーゼを標的とする不可逆的阻害薬オシメルチニブ(商品名タグリッソ)が2016年3月、厚労省により承認された。適応症は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性を獲得したEGFR-T790M遺伝子変異陽性で手術不能、または再発の非小細胞肺がん(NSCLC)である。優先審査品目指定で、申請後およそ7カ月での承認であった。第1世代のイレッサ、タルセバ、第2世代のジオトリフに続く第3世代と位置付けられている。
本承認は、第2相試験であるAURA2試験の結果をもとに承認されたが、今回、T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象としたタグリッソ単剤とペメトレキセドとプラチナ製剤併用を比較した第3相試験(AURA3,NCT02151981)結果がNew England Journal of Medicine12月6日号に掲載された。
AURA3は、EFGRTKI耐性のT790M陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)におけるタグリッソの国際的な無作為化オープンラベル試験。EGFR–TKIの1次治療でPDとなった419名の患者が登録され、タグリッソ80mg/日経口投与群とペメトレキセド500mg/m2+プラチナ製剤(シスプラチン75mg/m2またはカルボプラチンAUC5)3週ごと静注群に2:1に無作為に割り付けられた。また、ペメトレキセド+シスプラチン群に割り付けられた方は、使用中止後にタグリッソ群を使用できた(クロスオーバー)。主要評価項目は治験研究者評価の無増悪生存期間(PFS)であった。
結果、PFS中央値はタグリッソ群10.1ヶ月、ペメトレキセド+プラチナ群4.4ヶ月であり、統計学的に有意にタグリッソ群で長かった(ハザード比:0.30、95%信頼区間:0.23–0.41、p<0.001)。奏効率(ORR)はタグリッソ群71%、ペメトレキセド+プラチナ群31%とこちらも統計学的に有意にタグリッソ群で良好だった(オッヅ比:5.39、95%信頼区間:3.47-8.48、p<0.001)。
また、タグリッソは脳転移例でも良好な成績を示し、被験者の中で中枢神経系(CNS)転移のあった144名のPFS中央値は、タグリッソ群8.5ヶ月、ペメトレキセド+プラチナ群4.2ヶ月と統計学的に有意差は示さなかったもののタグリッソ群で優れていた(ハザード比:0.32、95%信頼区間:0.21–0.49)。
当試験におけるグレード3以下の有害事象発現率は、タグリッソ群23%、ペメトレキセド+プラチナ群47%と、タグリッソ群で少なかった。
タグリッソのPFSのベネフィットは事前に設定されたすべてのサブグループで横断的にみられ、CNS転移例も含めハザード比は0.5未満であった。著者のTony. S. Mok氏らは、タグリッソは、1次治療のEGFR-TKI無効のT790M陽性NSCLCにおいて、CNS転移例も含めプラチナベースの化学療法よりも効果的であることを結論として述べている。
日本人のみのデータでも良好な結果 肺癌診療ガイドラインで推奨グレードAに
12月20日、第57回日本肺癌学会学術集会のプレナリーセッションにて、愛知県がんセンター中央病院の樋田 豊明氏が日本人の解析データを発表。無増悪生存期間、脳転移を対象とした場合の無増悪生存期間等いずれのデータにおいても、全体の解析データと同じく良好なデータが認められ発表した。
樋田氏は、「AURA3試験により、T790M変異陽性のNSCLCと向き合っている患者さんにとって、これまでの効果の限定された標準的化学療法に代わり、効果が高く安全性が確認されたタグリッソが2ndライン治療として標準治療となることが示されました。また、我々医療従事者にとっても患者さんに新たな治療戦略を提供できることになり、大いに期待しています」とコメントしている。(アストラゼネカプレスリリース抜粋)
一方、ディスカスタントを務めた和歌山県立医科大学の山本 信之氏は、初回治療の病態進行中止からタグリッソ使用開始までのリードタイムが2か月程度と長いことを指摘。リキッドバイオプシーに期待とコメントした。
なお、日本肺癌学会が発行する「肺癌診療ガイドライン2016年版」において、タグリッソはAURA3試験結果に基づき、IV期非小細胞肺癌の二次治療の上皮成長因子受容体 (EGFR) T790M変異陽性例(PS0-1)において、推奨グレードAとして掲載されている。
記事:可知 健太 & 加藤 テイジ
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