2018年2月28日、医学誌『The Lancet Oncology』にて未治療のステージII/IIIトリプルネガティブ乳がん患者に対する術前化学療法としてのポリ(ADP リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬であるベリパリブ(ABT-888)+パクリタキセル+カルボプラチン併用療法、パクリタキセル+カルボプラチン+プラセボ併用療法、またはカルボプラチン+プラセボ併用療法の有効性を比較検証した第III相のBrighTNess試験(NCT02032277)の結果がGerman Breast Group・Sibylle Loibl氏らにより公表された。
BrighTNess試験とは、未治療のステージII/IIIトリプルネガティブ乳がん患者(N=634人)に対して術前化学療法として3週を1サイクルとしてパクリタキセル80mg/m2+カルボプラチン 6mg/mL+1日2回ベリパリブ50mg併用療法を4サイクル投与する群(N=316人)、3週を1サイクルとしてパクリタキセル80mg/m2+カルボプラチン 6mg/mL+プラセボ併用療法を4サイクル投与する群(N=168人)、3週を1サイクルとしてパクリタキセル80mg/m2+プラセボ併用療法を4サイクル投与する群(N=158人)に2:1:1の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として病理学的完全奏効率(pCR)、副次評価項目として乳房温存術施行率(BCR)などを比較検証した国際多施設共同二重盲検化プラセボの第III相試験である。なお、上記治療後に全ての患者に対して2週または3週を1サイクルとしてドキソルビシン+シクロホスファミド併用療法を4サイクル投与している。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群は51歳(41-59歳)、パクリタキセル+カルボプラチン群は49歳(40-57歳)、パクリタキセル群は50歳(42-59歳)。人種はアジア人がそれぞれ18%(N=57人)、14%(N=22人)、13%(N=21人)。生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異陽性率はそれぞれ14%(N=45人)、16%(N=25人)、15%(N=23人)。原発腫瘍の大きさ・広がり(T因子)のステージはT1がそれぞれ12%(N=37人)、13%(N=20人)、10%(N=15人)、腋窩リンパ節転移(N因子)N0がそれぞれ57%(N=180人)、58%(N=92人)、60%(N=194人)。
上記背景を有する患者に対して本治療薬を投与した結果、主要評価項目である病理学的完全奏効率(pCR)は本試験に登録された634人の患者の内309人に該当する49%で達成し、各群における病理学的完全奏効率(pCR)は下記の通りである。ベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群53%(N=168/316人)、パクリタキセル+カルボプラチン群58%(N=92/160人)、パクリタキセル群31%(N=49/158人)であった。なお、3群間で病理学的完全奏効率(pCR)はパクリタキセル群よりもベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群で統計学的有意に高率であったが(P<0.0001)、ベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群とパクリタキセル+カルボプラチン群の間では統計学的有意な差は確認されなかった(P=0.36)。
また、生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異別の病理学的完全奏効率(pCR)は下記の通りである。本試験に登録された生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異陽性患者47人の内92人に該当する51%、遺伝子変異陰性患者542人の内262人に該当する48%が達成し、各群における病理学的完全奏効率(pCR)は下記の通りである。生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異陽性症例では、ベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群57%(N=26/46人)、パクリタキセル+カルボプラチン群50%(N=12/24人)、パクリタキセル群41%(N=9/22人)。生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異陰性症例ではそれぞれ53%(N=142/270人)、59%(N=80/136人)、29%(N=40/136人)であった。
副次評価項目である術前化学療法後の乳房温存術施行率(BCR)はベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群62%(N=45/73人)、パクリタキセル+カルボプラチン群44%(N=15/34人)、パクリタキセル群44%(N=15/34人)であった。なお、完全切除率はそれぞれ61%(N=185/306人)、57%(N=89/155人)、51%(N=72/143人)であった。
一方の安全性として、グレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)発症率はベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群71%(N=222/313人)、パクリタキセル+カルボプラチン群68%(N=108/158人)、パクリタキセル群15%(N=23/157人)の患者で確認され、パクリタキセル群よりも他の2群で発現率が高かった。なお、最も多くの患者で確認された治療関連有害事象(TRAE)の全体内訳は、好中球減少症56%(N=352/628人)、貧血29%(N=180/628人)、血小板減少症12%(N=75/628人)であり、各群におけるグレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。
好中球減少症はベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群57%(N=179/313人)、パクリタキセル+カルボプラチン群53%(N=84/158人)、パクリタキセル群3%(N=4/157人)。貧血はそれぞれ25%(N=77/313人)、17%(N=27/158人)、0%(N=0/157人)。血小板減少症はそれぞれ11%(N=33/313人)、6%(N=10/158人)、0%(N=0/157人)。
また、最も多くの患者で確認された重篤な有害事象(SAE)の全体内訳は、発熱好中球減少症13%(N=80/628人)、貧血3%(N=20/628人)、各群における重篤な有害事象(SAE)は下記の通りである。発熱好中球減少症はベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン群1%(N=4/313人)、パクリタキセル+カルボプラチン群1%(N=1/158人)、パクリタキセル群0%(N=0/157人)。貧血はそれぞれ1%(N=2/313人)、0%(N=0/158人)、0%(N=0/157人)。
以上のBrighTNess試験の結果よりSibylle Loibl氏らは以下のように結論を述べている。”トリプルネガティブ乳がん患者さんに対する術前化学療法としてのベリパリブ+パクリタキセル+カルボプラチン併用療法は、パクリタキセル療法に比べて病理学的完全奏効率(pCR)を改善はしましたが、パクリタキセル+カルボプラチン併用療法に対して改善傾向は確認されませんでした。また、治療関連有害事象(TRAE)はパクリタキセルに対してカルボプラチン、もしくはカルボプラチン+ベリパリブを上乗せすることで増加しましたが、管理可能な安全性プロファイルを示しました。”
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