・BRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者が対象の第2相試験
・術前化学療法としてのシスプラチン単剤療法の有効性・安全性を検証
・病理学的完全奏効率はシスプラチン群18%に対してドキソルビシン+シクロホスファミド群26%だった
2020年2月25日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にてBRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者に対する術前化学療法としてのシスプラチン単剤療法の有効性、安全性を検証した第2相のthe INFORM試験(NCT01670500)の結果がBeth Israel Deaconess Medical CenterのNadine Tung氏らにより公表された。
the INFORM試験とは、BRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者に対する術前化学療法として3週を1サイクルとしてシスプラチン75mg/m2単剤療法を投与する群、または2~3週を1サイクルとしてドキソルビシン60mg/m2+シクロホスファミド600mg/m2併用療法を投与する群に無作為に振り分け、主要評価項目として病理学的完全奏効率(pCR;シスプラチンがドキソルビシン+シクロホスファミドに比べて20%以上増加が主要評価項目達成条件)を比較検証した第2相試験である。
本試験が開始された背景として、BRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者に対する術前化学療法としてのプラチナ系抗がん剤の有効性、安全性を検証した臨床試験のデータは非常に限られている。以上の背景より、BRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者に対する術前化学療法としてのシスプラチン単剤療法の有用性を検証する目的で本試験が開始された。
本試験に登録されたシスプラチン群60人、ドキソルビシン+シクロホスファミド群58人の患者背景は下記の通りである。
年齢中央値
シスプラチン群=40±10歳
ドキソルビシン+シクロホスファミド群=44±10歳
BRCAステータス
シスプラチン群=BRCA1陽性 73%、BRCA2陽性 25%、BRCA1/2陽性 2%
ドキソルビシン+シクロホスファミド群=BRCA1陽性 64%、BRCA2陽性 34%、BRCA1/2陽性 2%
進行病期
シスプラチン群=ステージI 13%、ステージII 67%、ステージIII 20%
ドキソルビシン+シクロホスファミド群=ステージI 26%、ステージII 59%、ステージIII 16%
ホルモン受容体ステータス
シスプラチン群=陽性 27%
ドキソルビシン+シクロホスファミド群=陽性 33%
以上のような背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である全患者群における病理学的完全奏効率(pCR)はシスプラチン群18%に対してドキソルビシン+シクロホスファミド群26%(RR:0.70,90%信頼区間:0.39-1.2)、主要評価項目達成基準は未達であった。また、トリプルネガティブ乳がん群における病理学的完全奏効率(pCR)はシスプラチン群23%に対してドキソルビシン+シクロホスファミド群29%、ホルモン受容体陽性群はシスプラチン群6%に対してドキソルビシン+シクロホスファミド群21%を示した。
一方の安全性として、20%以上の患者で確認された全グレードの有害事象(AE)はシスプラチン群で嘔吐87%、倦怠感80%、耳鳴り53%、貧血25%、便秘22%に対してドキソルビシン+シクロホスファミド群で倦怠感79%、吐き気70%、便秘35%、口内炎26%、消化不良25%、貧血23%であった。
以上の結果よりNadine Tung氏らは以下のように結論を述べている。”BRCA遺伝子陽性HER2陰性の乳がん患者に対する術前化学療法としてのシスプラチン単剤療法は、ドキソルビシン+シクロホスファミド併用療法に比べて病理学的完全奏効率(pCR)を統計学有意に改善しませんでした。”
この記事に利益相反はありません。