2016年7月1日に大腸癌研究会で発表になりましたように新しい大腸癌治療ガイドラインが間もなく公開されます。
今回の大腸癌治療ガイドラインの改定は、大鵬薬品工業のための改定と言われれますようにS-1、ロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)をはじめ大鵬薬品工業の薬ばかりが化学療法の推奨レジメンに掲載されます。
この度の改定により進行再発大腸癌の治療戦略を立てる時に考慮しなければいけない選択肢がいくつか出てきましたので、その選択肢を4つご紹介します。
目次
一次治療の抗がん剤レジメンとしてSOXを使うかどうか
これまでオキサリプラチンベースの抗がん剤レジメンといえばFOLFOXもしくはXELOXの2つでしたが、今回の改定からはSOXレジメンが追加となりました。
この追記の根拠としては、切除不能進行再発大腸癌に対する一次治療としてFOLFOX+アバスチン(ベバシズマブ)療法とSOX+アバスチン(ベバシズマブ)療法のPFSの非劣性を証明したSOFT試験の結果です。
有効性における非劣性が証明されましたので、FOLFOXとSOXの違いとしてはグレード3以上の有害事象がFOLFOX+アバスチン群では白血球減少及び好中球減少が有意に多いのに対して、SOX+アバスチン群では下痢,食欲不振が有意に高いことです。
これまで抗がん剤レジメンを注射剤にするか?経口剤にするか?の決断をすればよかったものの、今後は経口剤レジメンにするならゼローダ(カペシタビン)にするか?S-1にするか?の決断もする必要があります。
一次治療の抗がん剤レジメンとしてFOLFOXIRIを使うかどうか
これまで殺細胞性の化学療法薬は2剤併用に分子標的治療薬であるアバスチン(ベバシズマブ)、アービタックス(セツキシマブ)、ベクティビックス(パニツムマブ)のどれかを併用するレジメンが第一選択肢でしたが、今回の改定案では殺細胞性の化学療法薬の3剤併用であるFOLFOXIRIが推奨レジメンとして加わりました。
この背景としては進行再発大腸癌の約10%にBRAFV600E遺伝子変異を持つ患者さんがおり、このような患者さんには既存の化学療法では有効性が乏しく予後が極めて不良であるが、FOLFOXIRI+アバスチン(ベバシズマブ)の治療レジメンならば有効性が高いことがTRIBE試験で証明されたからです。
この試験は切除不能進行再発大腸癌初回治療例を対象としてFOLFOXIRI+アバスチン(ベバシズマブ)と FOLFIRI+アバスチン(ベバシズマブ)の有効性、安全性を比較検討した第三相試験で、 FOLFIRI+アバスチン(ベバシズマブ)に対してFOLFOXIRI+アバスチン(ベバシズマブ)のPFS(無増悪生存期間)、奏効率が有意に高いことが証明されました。また、後のサブ解析ではOS(全生存期間)も有意に高くなることが証明されています。
2016年11月現在、日本ではBRAF遺伝子検査の保険適応が通っていないのでBRAFV600E遺伝子変異を持つ患者さんの特定ができません。
しかし、来年の2017年にはBRAF遺伝子検査が保険適応になると噂がありますので、殺細胞性の化学療法薬の3剤併用を臨床で投与する機会が増えてくるでしょう。
二次治療の分子標的治療薬としてサイラムザ(ラムシルマブ)を使うかどうか
二次治療に分子標的治療薬の併用療法は推奨されるかどうか?のクリニカルクエスチョンの答えとして、使用禁忌がなければ二次治療において分子標的治療薬を併用することが大腸癌ガイドライン016で推奨されています。
その推奨度のエビデンスレベルとしては、一次治療のレジメンに関係なくアバスチン(ベバシズマブ)は2B、抗EGFR抗体薬は一次治療に抗EGFR抗体薬を含むレジメンでは1D、それ以外のレジメンでは2Cです。
つまり、二次治療に上乗せする分子標的治療薬としては抗EGFR抗体薬よりもアバスチン(ベバシズマブ)の方が推奨度のエビデンスレベルが高いのです。
では、アバスチン(ベバシズマブ)と同様に血管新生阻害剤の作用機序を持つサイラムザ(ラムシルマブ)はどうでしょうか?今回の改定案では二次治療としてFOLFIRI+サイラムザ(ラムシルマブ)の治療レジメンが推奨になりましたが、残念なことにアバスチン(ベバシズマブ)との比較については今回のガイドラインでまったく触れられておりません。
しかし、FOLFIRI+サイラムザ(ラムシルマブ)の治療レジメンが推奨となった根拠は前治療としてフッ化ピリミジン系製剤+オキサリプラチン+アバスチン(ベバシズマブ)療法の一次治療歴を有する切除不能進行再発大腸癌患者です。
このように限定された症例のみのでしかサイラムザ(ラムシルマブ)を投与できる機会がありませんので、薬剤使い切りの観点から前治療にオキサリプラチンベースの抗がん剤レジメンが投与されている場合にはサイラムザ(ラムシルマブ)の投与を検討してもよいでしょう。
三次治療以降にロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)とスチバーガ(レゴラフェニブ)のどちらを先に使うか?
大腸癌ガイドライン2014ではスチバーガ(レゴラフェニブ)の後の位置づけになっていたロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)が、大腸癌ガイドライン2016ではスチバーガ(レゴラフェニブ)の後でも先でもどっちでもよくなりました。
ロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)がスチバーガ(レゴラフェニブ)の後でも先でもよい位置づけとなった根拠は2つです。1つは、標準的な化学療法後(フッ化ピリミジン剤、オキサリプラチン、イリノテカン)の病勢進行症例に対するロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)単剤とプラセボを比較投与したJ-003試験。
もう1つは、標準的な化学療法後(フッ化ピリミジン剤、オキサリプラチン、イリノテカン、アバスチン(ベバシズマブ)、アービタックス(セツキシマブ)、ベクティビックス(パニツムマブ))の病勢進行症例に対するロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)単剤とプラセボを比較投与したRECOURSE試験。
Randomized Trial of TAS-102 for Refractory Metastatic Colorectal Cancer — NEJM
ただし、J-003試験もRECOURSE試験も残念ながらロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)をスチバーガ(レゴラフェニブ)の先に使うか?後に使うか?を判断する根拠については触れられておりません。
ですので、両者のグレード3以上の副作用のどちらが懸念されるか?でその位置づけが決まりそうです。
例えば、スチバーガ(レゴラフェニブ)の手足症候群が懸念される患者さんならロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)が先、ロンサーフ(トリフルリジン/チピラシル)の好中球減少、白血球減少が懸念される患者さんならスチバーガ(レゴラフェニブ)が先になるでしょう。
まとめ
以上のように、今回の大腸癌治療ガイドライン2016の改定では大幅に変更される点が4つあります。選択肢が増えただけで削除されたレジメンは1つもありませんので、今後はますます患者さんの腫瘍、病勢の状態に応じた治療方針を立てることができます。
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